フォックスコンの新工場が建設されても、米国の雇用問題は解決しない──「米国産iPhone」への遠い道のり

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台湾エレクトロニクス大手でアップルのサプライヤーである鴻海精密工業(フォックスコン)は、米ウィスコンシン州で新しい製造工場に100億ドルを投資する意向だと発表した。しかし、どうやらこの工場で生まれる雇用は、米大統領選でトランプを支持した「自動車産業や鉄鋼産業で解雇された労働者たち」が求めていた仕事ではないようだ。

TEXT BY ISSIE LAPOWSKY

WIRED(US)

PHOTO:VCG/GETTY IMAGES

台湾エレクトロニクス大手でアップルのサプライヤーである鴻海精密工業(フォックスコン)は、米ウィスコンシン州で新しい製造工場に100億ドル(約1.1兆円)を投資する意向だと発表した。この工場では液晶パネルを生産し、主にコンピューターやヘルスケア機器、さらにはクルマ向けに出荷する計画である。

ホワイトハウスはこの発表を「アメリカン・イノヴェイションオフィス」(OAI)の顧問ジャレッド・クシュナーの“勝利”であることを強調した。トランプが約束していた「製造業を米国に戻す」ことを実行に移した画期的な出来事であると主張したのだ。

「業界のリーダーたる企業たちは、米国の能力が無限であり、米国の労働者が比類なき力をもっているのだと理解しています。フォックスコンは、そのリストに名を連ねることになるのです」と、ドナルド・トランプ大統領はホワイトハウスで発表した。その横に立っていたのは、ポール・ライアン下院議長、ウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカー、そして鴻海の会長である郭台銘(テリー・ゴウ)である。

しかしフォックスコンによると、ウィスコンシン州で生まれる約3,000の雇用は、自動車産業や鉄鋼産業で解雇された労働者が求めていたような製造業の仕事ではないという。2016年の大統領選挙でトランプが約束した「アメリカでiPhoneをつくること」でもない。それは高度な新世代の製造業の一部であり、高いレヴェルのエンジニアリングスキルを必要とするものだ。しかし、そのスキルは米国の労働力にはまだ欠けている。

「メイド・イン・アメリカ」には時間がかかる

それは悲観的に聞こえるが、適切な技能訓練と組み合わせれば、米国の労働者にとっては素晴らしいことかもしれない。確かにトランプは、すべてのiPhoneに「メイド・イン・アメリカ」と刻まれることを望んではいるが、先進的な製造に投資することはそれよりもっと賢明である。

iPhoneを米国で生産するなら、アップルが中国などの海外にアウトソーシングしている低技能な組立ラインにまつわるサプライチェーンすべてを構築することが前提になる。だが、それは米国ではコストに見合わない。iPhoneを完全に米国でつくることになれば、価格は急上昇するだろう。

フォックスコンのような重要なサプライヤーであっても、米国内に工場をつくるくらいでは、アップルのサプライチェーンの全体像を変えることはできない。実際、アップルがウィスコンシンの工場から液晶パネルを調達するかどうかは、定かではない。

アップルのサプライチェーンを広く研究したシラキュース大学情報学科教授のジェイソン・デドリックは、このように語る。「iPhoneを構成する部品は何千点もあります。液晶パネルは重要ですが、すべて米国でつくるならサプライチェーンの構築にもっと多くの時間がかかるでしょう」

今回の発表により、フォックスコンは高度な技術をもつ人々に職を提供する役割を果たすことができた。2016年のホワイトハウスの報告によると、今後10年で米国は先進的な製造業において350万人分の職を補充する必要がある。しかし同じ報告書によると、米国内のスキル格差のために、200万以上の雇用が不足すると予測されている。人々が高度な業務に就けるだけのスキルを身につけられる訓練プログラムに政府が資金を拠出しない限り、この新しい工場は機能しないだろう。

必要とされているのは高度なエンジニア

フォックスコンの決定を、トランプ大統領とウォーカー州知事、そしてライアン下院議長の3人は、トランプが「ラストベルト」で有権者に投票の見返りとして誓った約束の“証拠”とした。「大統領についてわたしたちが知っていることのひとつは、米国の製造業を復活させ、職を米国に取り戻すということです」とライアンは語った。「これは実際に結果を出しています」

しかし、ラストベルトの人たちの工場での経験が、成長産業における技術主導型の職に容易に転換できるわけではない。また、かつての鉄鋼産業で栄えた企業城下町のように、多くの人々を雇用できるわけでもないのである。「これらは高度なエンジニアリングの業務なので、『エンジニア』が不足しているんです」と、セント・トーマス大学のステファニー・レンウェイは語る。「必要なのは物理学者や電気技術者、機械技術者なのです」

レンウェイは、こうも付け加える。「ロボットのおかげで、従来の工場における仕事とは異なり、液晶パネルの製造は極めてクリーンな作業です」。実際、小さな塵によって不良が生じる可能性があるので、ほとんどのメーカーはロボットを多用している。

フォックスコンの100億ドルもの投資計画は、長期にわたる可能性がある。「そのときまでには、稼働している工場が時代遅れになる可能性があります」とレンウェイは憂慮する。それは存在しない仕事のレイオフや、そのためのトレーニングにつながるかもしれない。

米国内での雇用創出はかなうのか

アップルはフォックスコンの最も主要な顧客だが、ホワイトハウスでの発表には名を連ねなかった。しかし、アップルは最近、米国で先進的な製造業を支援する試みを始めた。アップルの最高経営責任者であるティム・クックは2017年5月、米国の先進的なメーカーに対して10億ドルを投資すると発表したのだ。その最初の2億ドルは、世界最大のガラスメーカーであるコーニングに投資し、この資金でガラス材料の研究開発を拡大するという。

コーニングの知的財産(および才能)は、米国に同社の拠点があることを考えると、理にかなっている。「すべては知のネットワークを確保するためです」とレンウェイは言う。

これらはフォックスコンが米国に工場を建設し、高技能な労働者を雇う約束を守ることが前提となっている。同社は2013年、3,000万ドルを費やしてペンシルヴェニア州で新工場を建設すると約束したが、実現できなかった。ウィスコンシン州の工場が本当に建設されれば、トランプ政府もそれが生み出す雇用のために、米国人労働者をトレーニングするためのプログラムへの投資を確実にするだろう。

さもなければ、ウィスコンシンにおける雇用確保にとって歴史的な投資であるとま祝っているものは、単なる巨額の浪費で終わってしまうかもしれない。

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