一晩で売り切れなかった本は全て焼き捨ててしまう、「最も美しい」出版レーベル

20170903-GettyImages-700741293-1024x682-de07fedc963650a2921852f4118f0c95dc5e190e

アートなのか、それとも政治的ステイトメントなのか。満月の夜に本を発売し、もしそれが売れ残ったなら一夜のうちに焼却処分する出版レーベルが、アイスランドにある。レーベルを率いる作家とアーティストの真意はどこにあるのか。

TEXT BY SHOGO HAGIWARA

本を燃やす

PHOTO: GETTY IMAGES

出版する書籍の“寿命”は一夜限り。

そんな型破りのコンセプトを掲げる出版社がアイスランドに存在する。アイスランド語で「月」を意味するTungliðと名付けられたこの出版レーベルは、満月の夜にぴったり69冊の書籍を出版し、その晩のうちに売れなかったものはすべて焼き捨ててしまうのだ。息の長い紙媒体の特徴を生かし、ロングタームで販売を継続していくことで、出版ビジネスの車輪を回していくという業界の常識とはまったく対局にある。

意味も主張は、あえてもたない

このレーベルを運営するのは、作家のダグル・ハーターソンとアーティストのラグナル・ヘルギ・オラフソンの2人。いまからさかのぼること3年ほど前、優良な文学作品が陽の目を見ることなくお蔵入りしてしまう現状を目の当たりにし、それらを世に出す方法を考え始めた。具体的なプランを練るにあたって、「世に出す」だけでなく「その存在が消失」するプロセスまでを、レーベルとしての活動に含むべきと判断したのだという。

「ぼくたちの活動を、出版界の現状に対する風刺と見る人たちがいるのは確かですし、そう見えるかもしれません。業界のルールがあるとすれば、それを生真面目に実行しているようには見えませんからね。この活動に何か目的があるとすれば、それは意味や主張といったものをあえてもとうとしないところにあります」と、2人は『ザ・ガーディアン』紙のインタヴューで答えている。

よい意味で肩のチカラが抜けているのか。書籍を一晩で燃やすことも、“焚書”に象徴される検閲や政治といったこととは無関係のコンセプトであると断言。「書籍に“十二分のリスペクト”を示すため、一級のフランス産コニャックを使って火を起こしているんだ」と軽やかに語る。

美しくあること

より多くの読者と知を共有するという民主的な書籍の役割を考えると、Tungliðの活動は非民主的とも言えるのでは? そう訊かれた2人は次のように答える。

「“民主的”というのは、ものが豊富にあることや供給が絶えないことをいうんじゃないと思う。プロセスがフェアなことが民主的なんだ」

たしかにTungliðが出版する書籍は、先行予約などはできず、満月の夜のイヴェント会場でも、列に並んだ順番でしか本を買うことはできない。ルールは極めてユニークで、とても厳格だが、購入を希望する読者に対してはあまねく平等なアプローチ。つまり彼らにとってはとても民主的なのだ。

「読者は誰でもウェルカム。ぼくたちがこの活動を通して達成しようとしていることは、自分たちの信念を貫き、楽しく、そして美しいことをやりたいってことなんだ。その3つが揃えば、ほかにいうことはない」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

話題をチェック

  1. 600x601x20170822nana.jpg.pagespeed.ic.u5ed1iTQeL-e5b3de5c391c8e3805df72a8cdb3da051ece71fa

    ANA、機内食総選挙2017の結果発表 和食は牛すきやき丼、洋食はビーフシチューとオムライス

    Sponsored link  機上ӗ…
  2. MIT-Instant-Retouch-TA-12db540ca97a6020f2db78ca5b27647ac89d2f28

    機械学習を用いれば、写真が「撮影する前」からプロ仕様の美しさに──グーグルとMITがアルゴリズムを開発

    NEWS 2017.08.22 TUE 08:00マサチ&…
  3. GettyImages-496380034-e1503241697905-b18cea347ee2933a806af5a4adfa2f3d9569add1

    「世界共通のインターネット」を巡る、グーグルとカナダ最高裁との闘い

    NEWS 2017.08.21 MON 07:00カナダ&…
ページ上部へ戻る