トヨタが自動運転に採用、22歳が開発した「高性能センサー」の実力

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トヨタ自動車が自律走行車の開発に向け、22歳の創業者が率いるスタートアップのセンサー技術を採用すると発表した。同社の技術は競合他社のセンサーと比べて、どこまで優れているのか。『WIRED』US版が、そのデモンストレーションの現場に立ち会った。

TEXT BY ALEX DAVIES
TRANSLATION BY KAORI YONEI/GALILEO

WIRED(US)

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PHOTOGRAPH COURTESY OF LUMINAR

サンフランシスコにある約9,300平方メートルのクルーズ船用ターミナルを貸し切ることは、シリコンヴァレーのテック企業がお披露目パーティーを開くにしても大げさに感じられる。だが、自律走行技術のスタートアップであるルミナーテクノロジーズ(Luminar Technologies)と22歳の創業者オースティン・ラッセルは、そのために喜んで数千ドルを支払った。

その目的は、遊んで楽しむためではない。実際、この広大な建物に集められたのは、わずか6人ほどである。ラッセルが5年前から開発してきたレーザー光を使ったレーダー、LiDAR(ライダー)システムのデモを行うには広い空間が必要で、サンフランシスコには条件を満たす場所が数えるほどしかないのだ。

このルミナーのライダーシステムを、自律走行車の実用化へと本格的に動き出したトヨタ自動車が採用する計画を明らかにした。ライダーセンサーはレーダーのようなデヴァイスで、物体にレーザー光を当て、反射時間を測定することで、周囲の3次元地図を作成する。

自律走行車の「眼」の解像度が50倍に

ラッセルは空っぽの建物の端に立つと、わたしに双眼鏡を渡し、200m先のイーゼルに置かれた縦横約30インチ(76cm)の黒い厚紙を見るように指示した。ただの厚紙ではない。受けた光を10パーセントだけ反射し、「均一なスペクトルの反応」を示すことが保証された、反射コーティング「パーマフレクト」が施されている(なお、価格は1万~2万ドルする)。これはライダーセンサーのテストツールとして公認されている素材だ。

ラッセルは、ライダーの測定結果を大型モニターに映し出した。スクリーン上の原色で描かれた世界では、黒い厚紙がオレンジに輝いている。黒い厚紙が置かれた200mまでの間には、タイヤの山やマネキン、「Tesla Model S」、「BMW i3」などが置かれていたが、それらがくっきりと浮かび上がっている(下の画像)。会場を歩き回るハトの脚も1本ずつはっきり認識できた。

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PHOTOGRAPH COURTESY OF LUMINAR

「いまの技術では、自律走行車はしっかりと“見る”ことができません。ハードウェアとデータの抜本的な改善が必要なのです」とラッセルは話す。2017年4月に姿を現したルミナーの技術は、それを実現できる。ラッセルによれば、ルミナーが開発している靴箱大のライダーは、最も優秀な競合品と比べて10倍遠くまで見ることができ、解像度は50倍に達するという。

ラッセルは今後、完全な自律走行車を実現しようと競う多くの企業と戦うことになる。ライダーは自律走行車の未来に不可欠だと多くの技術者が考えており、大小さまざまな企業がこぞって、距離、解像度、製造可能性、堅牢性、コストのバランスがいいライダーユニットを開発しようと試みている(ライダーの知的財産については、グーグルとUberが法廷で激しく争っている[日本語版記事])。

イーロン・マスクは「コストが高い」と否定

ライダーはレーダーよりも精度が高く、カメラとは違って周囲の光に依存しない。ただし、カメラやレーダーに比べるとまだ初期の技術であるため、いくつか問題点がある。まず、動く車に搭載した実績があまりなく、風雨や道路の凹凸に十分さらされていない。

また、実業界の大物からの反発にも遇っている。テスラのイーロン・マスクだ。ライダーはコストが高過ぎるため、乗用車に搭載できる日は来ないというのがマスクの見方だ。マスクは高品質なカメラと人工知能(AI)さえあれば、自律走行車を安全に走らせることは可能だと主張している。

ラッセルはこれに対し、「もちろん可能ですが、おそらくあと100年はかかるでしょう」と反論する。ラッセルによれば、ライダーはセンサーの主役となるべき存在で、自律走行車のソフトウェアがあらゆる場面で判断を下すのに欠かせない高品位データを提供してくれるという。

Luminar Technologiesの創業者である22歳のオースティン・ラッセル。PHOTOGRAPH COURTESY OF LUMINAR

ラッセルは、6年前にライダーの可能性を見いだした、一種の天才だ。17歳のとき、入学から数カ月でスタンフォード大学を中退し、「ティール・フェローシップ」[日本語版記事]の奨学金でルミナーを立ち上げた。そして、スキャナーが発する光の周波数を変化させ(905ナノメートルを1,550ナノメートルへ)、受信機に用いていたシリコンを高価なヒ化インジウムガリウムに置き換えることで、独自のハードウェアソリューションを生み出した。

ラッセルによれば、完成したライダーは性能もコストも高いのだという。価格は公表されていないが、ラッセルはそれほど心配していないという。複数の業界関係者が、完璧に安全な自動運転システムが実現するのであれば、1台当たり40万ドル(約4,500万円)くらいは喜んで支払うと述べているそうだ。1台当たり40万ドルもすれば一般の乗用車には搭載できないが、常に走り回っているタクシー用に大規模に購入するなら、元が取れる可能性がある。

トヨタがルミナーを選んだ理由

ラッセルの賭けは成果を生み出しつつあるようだ。ルミナーは現在、フロリダ州オーランドとカリフォルニア州パロアルトの近くに拠点を置き、合わせて250人の従業員を抱える。4月には、100ユニット規模でハードウェアの製造を開始した。次の製造は1万ユニットを予定している。

しかも、トヨタの支援を受けられることになった。トヨタは9月27日(米国時間)、「プラットフォーム2.1」と名付けられた最新の自律走行車に、ルミナーのライダーを採用すると発表したのだ。

世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、これまで自動運転に言及することはほとんどなかったが、2015年後半に壮大な構想を発表した[日本語版記事]。シリコンヴァレーとマサチューセッツ州ケンブリッジ、ミシガン州アナーバーに研究施設をつくり、AIやロボット工学の研究に10億ドル(約1,125億円)を投じるという内容だ。なお、トヨタは2016年1月、他社の2倍の「自動運転関連の取得済み特許」を保有している[日本語版記事]と報道されている。

トヨタ・リサーチ・インスティチュート(TRI)の最高技術責任者(CTO)であるジェームズ・カフナーは、「外界の知覚は鍵を握る要素のひとつで、なかでもライダーは広範囲の詳細な地図を描いてくれる重要なセンサー技術です」と述べる。つまり、トヨタのソフトウェアが分析できる高品質なデータになる。ちなみにカフナーは、グーグルの自律走行車プロジェクトの立ち上げメンバーで、同社のロボティクス部門を数年にわたって率いていた人物である。

「わたしたちはあらゆるプロトタイプの評価を行っています」とカフナーは述べるが、ルミナーは斬新なアプローチをとっており、必須条件である「200mの壁」をクリアしているという。ルミナーからのライダーの購入数と購入額をトヨタの広報担当者に問い合わせたが、回答は得られなかった。

ラッセルはライダー戦争にまだ勝利したわけではないが、トヨタとの契約は間違いなく盛大に祝うべきことだ。9,300平方メートルのクルーズ船ターミナルを貸し切っても、決して分不相応ではないだろう。

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