100年後、人類はその曲を聴けるだろうか?:「ルイ13世」とファレルが伝えたかったこと

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ブレンドした1,200種類ものオー・ド・ヴィー(原酒)を、100年の時をかけることで完成させるフランスの最高級コニャック「ルイ13世」。この、目もくらむような100年という時の重さを可能な限り“実感”として伝えるべく、ルイ13世はひとりのアーティストにある依頼を出した。「100年後に聴かれる曲をつくってほしい」。感性の拡張を求めるがごとき問いに込められた思いとは?(雑誌『WIRED』日本版VOL.30より転載)

PHOTOGRAPHS BY DAVID UZOCHUKWU
TEXT BY TOMONARI COTANI

Disk

フランス・コニャック地方の石灰質の土でつくられたレコード。今後100年間聴かれず保管される。

21世紀のフランス思想界において最重要人物と目されるベルナール・スティグレールは、著書『技術と時間(1)─エピメテウスの過失』〈西兼志=訳、石田英敬=監修/法政大学出版局〉の中でこう述べている。

「現存在は時間的である。それは、ひとつの過去を持ち、そこを起点に未来を先取り存在する。(中略)その未来は、終わりがいつ、なぜ、いかにして訪れるかが根源的に非規定であるのと同様に、非規定である」

引用の冒頭、現存在という言葉に引っかかったかもしれない。現存在とはドイツの哲学者マルティン・ハイデガーによる造語で、「人間は、ある特定の時間的・空間的な状況に投げ込まれた存在であると同時に、その状況をつくり出す存在でもある」という二重性、あるいは主体性を指している。

100年後の完成を目指し、4世代のセラーマスターがオー・ド・ヴィー(原酒)を受け継ぐことで結実する最高級コニャック「ルイ13世」は、スティグレールが示唆した通り、自身が介在していない過去を継承し、同時に、自身が存在しえない未来を生み出すという偉業の連続によってのみ存在しうる、奇跡のようなプロダクトだといえるだろう。そのデキャンタの中には、人類がもつ技術(テクネー)と知(エピステーメー)のひとつの極みが、封印されているといっても過言ではない。

未来が水没しかねない

そんなルイ13世が、「100 YEARS」の名の下、ある楽曲をプロデュースした。アーティストはファレル・ウィリアムス。リリースは100年後の2117年である。おそらく当事者たちの誰もがリリースに立ち会えない、というプロジェクトが始動した理由は、「The Song Weʼll Only Hear If We Care」(私たちが変われば聴ける歌)という曲のタイトルに込められている。

PHARRELL WILLIAMS

PHARRELL WILLIAMS

制作中のファレル。音楽もルイ13世も、その本質の内に時間を孕んでいる。両者の邂逅は必然!?

ルイ13世のオー・ド・ヴィーは、ブドウの産地コニャック地区のなかでも最上級の「グランド・シャンパーニュ」産のブドウを原料としている。ブドウの等級は、主に土壌(テロワール)の質によって決定されるが、この先の気候変動次第では、コニャック地区そのものが水没する可能性すらあるとされている。テロワールの豊かな恵みを得られなければ、たとえ最高のセラーマスターであっても、ルイ13世を継承していくことは適わない。その危機意識から始まったのが「100 YEARS」であり、その主旨に呼応したのが、ルイ13世の愛飲者でもあり、環境問題に対する関心を隠さないファレル・ウィリアムスであった。彼はこう語る。

「地球温暖化問題をみんなが認識し、常にプレッシャーを感じていかなければ、子孫に美しい自然を残せないと思います。今日のアクションによって未来が築かれていくことは、ルイ13世の存在が示している通りです。行動を起こさない限り、改善は起きません。今回の楽曲とレコードの存在が、そうした活動の暗喩になればと思います」

「The Song Weʼll Only Hear If We Care」は、ザ・ビートルズの「Blackbird」のごとく牧歌的な調子で始まる。100年後の人類がこの曲を聴けるのか否か。その未来はまだ非規定だ。

[レミーコアントロージャパン]

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    1/32017年11月13日、上海にて「100 YEARS: The Song We’ll Only Hear If We Care」のプレミア発表会が開催。世界中から100人のゲストが招かれ、「1回限りの試聴会」が行われた。石灰質土製のレコードに針を落としたのは、もちろんファレル。

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    2/3フランスの老舗メーカーFichet-Bauche製の金庫。100年後まで解錠されないが、水没した場合は中のレコードが壊れる設計になっている。

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    3/3金庫にはレコードと共にルイ13世も納められた。

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