AIからゴッホが生まれる日──Innovative City Forum 2017レポート

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「20年後、私達はどのように生きるのか? 都市とライフスタイルの未来を描く」をテーマに、 多分野のイノヴェイターが世界各地から東京に集結。毎秋恒例となった国際シンポジウムも、今回で 5 回目を迎えた。2017年は従来の領域=科学・技術、アート・デザイン、都市開発のほかに、経済・産業分野の視点も加わった。そのハイライトを紹介し、今後の都市像を考えたい。(雑誌『WIRED』日本版VOL.30より転載)

TEXT BY SHINICHI UCHIDA

Innovative City Forum 2017」2日目に開催された「イノベーティブ シティブレインストーミング」の「Theme4:人工知能時代のアートの役割」の様子。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

その日、「Innovative City Forum 2017」(以下、ICF)会場となった六本木アカデミーヒルズの一室は、ややカオティックな様相を帯びていた。全日程の中日となる2日目、シンポジウムは分科会4つを同時に開く「ブレインストーミング」に突入。

都市インフラ、企業と働き方、シェアリングエコノミーなど、各テーマ別の部屋へと参加者は分散したが、4つ目の「人工知能時代のアートの役割」の会場には、ほかと違う空気があった。カフェを用いたオープンスペースでは、分科会をさらに細胞分裂させるかのように、複数の「リソースパーソン」それぞれを囲む参加型討論用のシマが用意されていたのだ。

AI時代に、芸術の「評価基準」はあるのか

参加者を迎えるのは、AI研究者の松尾豊、アーティストのスプツニ子!、哲学者の岡本裕一朗、そしてITヴェンチャー、メタップスCEOの佐藤航陽の4人。まず誰の前に座ったものかとざわつく会場で、ファシリテーターを務める齋藤精一(ライゾマティクス)が、リングアナよろしくルール説明を始める。参加者はどのグループに加わってもよく、途中移動も自由。リソースパーソンを中心に自由討議を行い、最後に全員で各グループの議論報告と、最終討議を行う。

ワークショップなどではよくある構成だが、登壇者たちの知見を客席から拝聴というかたちが多いICFのような場では、一歩踏み込んだチャレンジだったといえる。「人工知能時代のアートの役割」をめぐる4グループの自由討議は、参加者の関心からか、自然と「AIはアートを生み出せるのか」の問いを共通項に始まったように見えた。

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    1/5ICF2日目に開催された「イノベーティブシティブレインストーミング」の「Theme4:人工知能時代のアートの役割」に登壇した、アーティストのスプツニ子!。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

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    2/5哲学者の岡本裕一朗。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

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    3/5メタップスCEOの佐藤航陽。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

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    4/5AI研究者の松尾豊。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

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    5/5ファシリテーターを務めたライゾマティクスの齋藤精一。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

一方、そこからの議論は グループごとに違いを見せ、AIの創作を誰がどう評価できるのか、 またはそのとき人間のつくるアートとその需要はどう影響を受けるか、さらに人間とAIの「合作」可能性や、造形表現を超えた文脈やストーリーの創出可能性などにおよんだ。

後半に全員で行った討議では、別々の場で進めた議論が前提にあるためか、参加者間の立ち位置の違いが浮き彫りになる場面があったのも印象的だ。たとえば、AI時代の芸術の「評価基準」を議論の軸に据えようとする者と、つくり手(いまのところ人間)の創作動機はそもそも評価への希求とは別にあるという者。古くからある対立項ではあるが、議論の要素にAIを加えたことで、逆にわれわれ人間の行動を客観的に語り合える面もあった。

2日目に開催された「イノベーティブ シティブレインストーミング」の「Theme4:人工知能時代のアートの役割」で使用したボード。4つの方向から、人工知能とアートについてのさまざまな議論が行われた。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

この全員参加型&シャッフル的セッションが成功したのかという「評価」は、一概には判断できない。ただその光景は、ICFが今年は経済・産業視点も取り入れ、都市の複雑化と混沌から未来を探る姿勢を一層強めたことのひとつの象徴だったかもしれない。この傾向はICF2017全体にも通底する。たとえば1日目の基調講演に登壇した建築家、フランソワ・ロッシュの領域横断的な人間工学。

続くセッションのひとつ「共生の世界:細胞から宇宙まで」に登場した舩橋真俊(ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー)は、諸学問を渡り歩いたのち、生物多様性に基づく協生農法を実践している。また義足のポップアーティスト、ヴィクトリア・モデスタやメディアアーティストの落合陽一が示した身体・感性の拡張可能性にもヒントはうかがえた。

人間と機械が融合する社会に

2日目の最後には、ICF2017の総括的な「ICFプログラムコミッティセッション」が行われた。登壇者は同コミッティの市川宏雄(明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長)、南條史生(森美術館館長)、伊藤穰一(MITメディアラボ所長)、そしてICF全体の進行役を務める竹中平蔵。先行する議論では短編アニメも用いて都市生活と技術の未来を語った市川は、最新版が発表されたばかりの「世界の都市総合力ランキング」に言及した。

「そんなに順番が重要かという意見も含め、そこから(理想の都市についての) 議論が始まる」とし、多分野・多指標にわたる評価基準から都市を総合的にとらえる必要を主張。他方、東京の今後については都市としての「個性」を打ち出す重要さも繰り返した。

南條は前述したAIと芸術の議論にふれ、「AIが過去データからゴッホ風の絵を生み出せるか」といったことよりも、AIからまったく新たな創造性が誕生しうるかに関心があると強調。

加えて、都市の成熟が人間に余裕をもたらすとき、人間の関心は自然と文化芸術に向かうとの持論も背景に、AI時代に人間がアートに関わることの意味を問うこと、すなわち新しい時代のクリエイティヴィティや、創作の動機とその先にある理想への再考を示唆した。

2017年は、六本木アカデミーヒルズで開催された。PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

伊藤は、高度経済成長を通過した都市の発展指標は、従来のGDPなどから、より定義しづらい要素に移行しつつあることを考察。すなわち、市川が今後の東京を語る際にあげたキーワード「ユニークネス」「エッジィ」や、「幸福度」などの価値観である(3日目には「幸福のためのイノベーション」と題するセッションもあった)。

一方で文化のもつ流動性ゆえ、時代や生活者層の違いによって、価値観は逆転することもありうると注意を促した。さらに、古代アテナイに始まる都市発展の陰にあった奴隷制を例に、高度なAIやロボットを新時代の奴隷と仮定したときの、今後の倫理的問題なども示唆。

人間が機械や技術を支配するというより、融合していくことが、倫理的にもデザイン的にも正しいのかもしれないと論じた。

思えば複雑化と混沌は、見方を変えればそのまま拡張、共生とも取れる。未来を「どのように生きるのか」というキーフレーズに、新たなリアリティが付与された感もある、今年のICFであった。

現在、各セッションの動画はICF2017にアップされている。

Innovative City Forum 2017

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