ミゲルのニューアルバム『War & Leisure』は、心の内面にある「真実」を浮き彫りにする

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R&Bシンガーであるミゲルの新作『War & Leisure』で、彼は暗く不安定な社会情勢を深く反映しながらも内面的なアプローチをとっている。絶え間なく変化し続けてきたアーティストは、どんなメッセージを届けようとしているのか。

TEXT BY JASON PARHAM
EDITED BY CHIHIRO OKA

WIRED(US)

Miguel

PHOTOGRAPH COURTESY OF BYSTORM ENTERTAINMENT/RCA RECORDS

2017年12月初めにリリースされた新作アルバム『War & Leisure』の7曲目「Told You So」で、R&Bシンガーのミゲルは「喜び」の名のもとに「解放」を表現してみせた。

派手なビートに乗せて、優しく「お前を自由にしたいんだ/とにかく俺についてこい」と歌う。これは彼にとってまったく新しいテーマというわけではない(彼の音楽は結局のところ、誰かのそばにいるときにどうやって自分の身体が目的を見つけるかについてのものだ)。

だが、昨今の暗く不安定な社会情勢を深く反映したこのアルバムにおいて、ミゲルの言葉は重みを増している。個人の行動は常に政治的であり、自己の内面には自由を見出し得るということだ。

ミゲルはこれまでも絶え間なく変化し続けてきた。デビューからの3枚のアルバムでは、カリフォルニア生まれのアーティストの葛藤を描きながら、五感で感じるものを努めて受け入れようとしていた。そして、そこに喜びを見いだしていく過程を、サテンのように柔らかなファルセットで歌い上げた(2作目のアルバム『Kaleidoscope Dream』に収められた「Use Me」や「How Many Drinks」の強引さから、前作『Wildheart』の「Coffee」のひりひりした感覚まで、このスタイルは一貫している)。

フランク・オーシャンやソランジュといった同年代のアーティストと同じように、ミゲルは創造力と繊細でロマンチックな内面によって、自らの人生の物語を通じてバラードを生み出している。彼の作品にはつながることの限界を明らかにする曲が多い。2人の間に横たわる距離を埋める、親密でときには性的な空間についての物語だ。ソングライターとしてのミゲルは、冗談めいた肉欲の世界、探求すること、そして欲望の衝動に向けられた音楽をつくり上げていく。

これまでの作品ではっきりとは示されていなかったのは、彼の政治的な側面だ。ところが『War & Leisure』において、ミゲルは時代に対して「よろい」を身にまとってみせた。音楽業界の要請というよりは、彼自身の決断だろう。

彼は『フォーブス』のインタヴューで、「現時点では自分の立ち位置に線を引く必要があるんだ」と語っている。さまざまなテーマが層を織りなすこのアルバムでは、警察による差別、移民の権利、トランプ大統領の就任がもたらす悪影響といった問題が扱われている。

「自由な世界のCEO/子どもたちに憎しみを教えるべきなのか?/罪なき人々を追いかけて撃つのか」

アルバムで最も前向きで政治的なバラード「Now」で、32歳のミゲルは静かにこう歌う。コーラス部分では、「あれがいまの自由の姿なのだろうか」という問いが投げかけられる。

ロマンチストであることに変わりはないが、彼はラディカルになった。そして無力な者にとって冷酷な世界を、ありのままに見つめる準備ができたのだ。

だからこそ、アルバムを通じて「脱出」「強さ」「他者のなかに見出された喜び」のメタファーとしての自由、というテーマが繰り返されているのだろう。ミゲルはまだ自由を手にしていない人々が、それに気づく手助けをしようとしている。

ひとは時代のさまざまな問題への立ち位置を決めなければならないとき、人生を見つめ直す時間を過ごすことになる。あなたが立つ場所はどこだろうか。そして自分が信じるもののために戦うとき、何をする覚悟があるだろうか。

ずっと先に2017年という年を振り返ったとき、さまざまなことを見つめ直さざるを得なくなった年として記憶していることだろう。自分たちの存在とは何か、人と人とのつながりとは、そして絶え間ない不安によってそこにどれだけヒビが入ったのかを。

2017年の重要性を過大評価するか、あるいは間違った位置づけをしているかもしれない。また個人的に30代になって、これまで築いてきた人間関係について考え直すようになったからかもしれない。しかし、ミゲルの新しいアルバムは、さまざまな立場から人生を見つめ直そうという行為に働きかけるものだと思わざるを得ない。自己の人生、親密であるかどうかに限らず他者の人生、そしてもっと広い世界から見た人生である。

社会ではさまざまな抗議活動が行われている。「ブラック・ライヴズ・マター」「ワシントン女性行進」「移民のいない日」などがそうだ。音楽業界でも同様の動きが起きている。ケンドリック・ラマーの『DAMN』からヴィンス・ステープルズの『Big Fish Theory』まで、今年のラップのベストアルバムは“声明文”の様相を呈している。耳を傾け、幅広くシェアして、大々的に議論すべき性質のものだ。

だが、特に過去12カ月のR&B界においては、これとは一線を画すアプローチがとられた。内面に向かったのだ。傷ついた率直さに満ちたサンファの『Process』、美しいハーモニーに包まれたSZAの『CTRL』、そしてケレラ、ブレント・ファイヤズ、ダニエル・シーザー。彼らは皆、内なる窓を開いていった。

R&Bの信奉者たちは自信喪失や空虚さ、後悔、そしてその結果としての成長に向き合う個人的な戦いに挑んだ。人と人との間にある壊れやすい隙間をどう進んでいこうか考えようとしたのだ。

『War & Leisure』におけるミゲルの戦いはパブリックであると同時に、パーソナルなものでもある。それは人は本気で何かを主張する前には、「自分はどんな人間になりたいのか」という問いに答えなければならないからだ。

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