基礎からわかるゲノム編集技術「CRISPR」──争点は技術的問題から倫理的問題へ

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DNAを精密にカット&ペーストする革命的な遺伝子編集技術「CRISPR」は、生物学の世界を一変させた。さまざまな応用可能性に多大な期待が寄せられているこの技術。いったいどんな仕組みなのか、動画とともに改めて解説しよう。

TEXT BY MEGAN MOLTENI
TRANSLATION BY TOMOYUKI MATOBA/GALILEO

WIRED(US)

VIDEO COURTESY OF WIRED US(PCでは右下の「CC」ボタンで字幕の切り替えが可能)

この5年の間に、遺伝子編集という革命的テクノロジーを世界中の研究者たちが利用するようになり、生物学は劇的に変化した。この技術では、研究者たちが自然にインスパイアされて開発した特殊なたんぱく質を利用し、DNAを精密にカット&ペーストする。

こうしたたんぱく質には3種類あり、ZFN、TALEN、CRISPRという、いずれも聞きなれない略称で知られている。だが、エレガントなデザインを備え、細胞への挿入も簡単で、最も研究者たちの想像力をかきたてるのはCRISPR[日本語版記事]だ。

この技術は現在、遺伝性疾患の治療や、気候変動耐性を備えた農作物の作出、あるいは、素材・食材・薬剤の開発などに利用されている。

ウイルスとの闘い

では、CRISPRはどんなふうに働くのだろう?

一般にCRISPRと呼ばれるのは、正確にはCRISPR-Cas9という、酵素とガイド役の遺伝物質の組み合わせのことだ。両者が一体になってDNAを発見し、編集する。

CRISPRという言葉は、「クラスター化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(Clustered Regularly Interspaced Palindromic Repeats)」の略称であり、つまり規則的に繰り返し現れるDNAの断片を意味する。それは太古の昔に細菌がつくりあげた、ウイルスの侵入に対する防衛機構だ。

ウイルスは細胞を乗っ取り、細胞の仕組みを利用して自己複製を続け、ついには細胞を死に至らしめる。これに対し、一部の細菌は反撃手段を進化させた。

DNAを切断するたんぱく質の数々を配備し、周囲にウイルスの遺伝子を見つけ次第、切り刻むのだ。こうした細菌は、ウイルスの攻撃を生き延びると、ウイルスDNAの小さなかけらを自らのゲノムの中に埋め込む。まるで、過去に出会った敵の人相書きのように。

細菌は以後、これらを利用してウイルスをより素早く発見する。こうしたウイルスコード(いわゆる「ガイドRNA」)の断片は、遺伝子の「記憶の宮殿」の秩序を保つため、反復回文構造の配列を挟んで隔てられている。

前から読んでも後ろから読んでも同じであることには、特に意味はない。重要なのは、過去に侵入したウイルスの遺伝的コードを、ほかのもっと重要な遺伝子から遠く離れた場所に保存できることだ。

そしてファイルしておけるということは、次にウイルスが戻ってきたとき、細菌はより強力な武器で応戦できるということでもある。Cas9という、でこぼこした貝型のDNA切断酵素と、ガイドRNAのコピーのセットが、倉庫から直送される。行動を開始したCas9は、分子サイズの暗殺者のように、遺伝子の人相書きに一致するものはすべて切り刻む。

ウイルスと戦う以外のCRISPRの仕事

ここまでは自然界で起きていることだ。しかし研究室では、強力なCRISPRシステムを手なずけた研究者たちが、ウイルスと戦う以外の仕事をさせるようになった。

最初のステップは、どんな生きた細胞からでも特定配列のブロックを検出できる、ガイドRNAをデザインすることだ。その対象は、遺伝的欠陥でも、植物の望ましくない形質でも何でもいい。標的遺伝子の塩基配列が「AATGC」だったとすると、研究者はその相補鎖RNAである「UUACG」をつくる。

そして、このRNAの短い配列をCas9とともに、編集したい細胞に注入する。ガイドRNAはCas9との複合体を形成し、RNAの一方の端がヘアピンカーブをつくってたんぱく質のなかに刺さる。もう一方の機能を担う側は、外側にぶら下がり、出合うDNAと相互作用する。

細胞核に入ったCRISPR-Cas9複合体はゲノムに沿って進み、PAMと呼ばれる短い配列に出合うたび、その場所に付着する。PAMこと「プロトスペーサー隣接モチーフ」はわずか数塩基だが、Cas9がDNAを捕まえるにはこれが必要だ。

PAMをつかんだCas9は、隣接する配列を不安定化させ、二重らせんのごく一部を解きほぐす。これによりガイドRNAが潜り込む隙間ができ、ガイドRNAはそこでマッチする配列を探し回る。マッチしなければ、次へと進む。すべての塩基がターゲットに対応する配列が見つかれば、ガイドRNAはCas9にはさみ状の付属物をつくらせ、それがDNAを2つに切断する。

プロセスをここで停止して、単に遺伝子を動作不能にすることもできる。あるいは、代替DNAの断片を加えて、遺伝子をノックアウトするのではなく、修復することも可能だ。

Cas3にCas13まで種類は豊富

それに、使うツールをCas9だけに限定する必要もない。ガイドRNAを利用するたんぱく質は、これ以外にもたくさんの種類があるのだ。

例えばCas3は、パックマンのようにDNAを飲み込む。研究者たちはこのCas3を使って、消化管のマイクロバイオームを損なうことなく、腸炎の原因菌であるクロストリジウム・ディフィシル(C. diff)の特定株だけを撲滅する標的型抗生物質を開発中だ。

またCas13という酵素は、ガイドRNAと一緒に働き、DNAではなくRNAの断片を奪い去る。シャーロック(Sherlock)と呼ばれるこのシステムは、精度の高いウイルス感染検査の開発に利用されている。

研究者たちは、CRISPRのツールキットに機能を追加しようと日夜努力を重ねている。だがいまのところ、もっとも広く利用されているのはCas9だ。

科学だけの問題ではない

CRISPRは万能ではない。ときにはたんぱく質がコースを外れ、予定外の場所を切断[日本語版記事]することがある。このため研究者たちは、こうした巻き添え被害を最小限に抑える方法の開発に努めている。

そして改良が進むほど、このテクノロジーを取り巻く倫理的問題はますます顕在化するだろう。例えば、デザイナーベイビー[日本語版記事]についてはどう考えるべきだろうか? 

善悪の境界線をどこに引くかを決めるには、科学だけでは不十分であり、政策立案者や一般大衆を巻き込んだ議論が必要だ。なぜなら近い将来、問題はCRISPRで「できるかどうか」ではなく、「やるべきかどうか[日本語版記事]」になるからだ。

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