発表から14年の時を経てリメイクされる「ゆめにっき」──その不安と謎に溢れた魅惑的な世界

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かつて日本国内外でカルト的な人気を集めたゲーム「ゆめにっき」。約7年もの長い沈黙を経て、2018年になって突如リメイク版が発表された。開発者の正体も主人公のプロフィールも知られていないこのゲームは、目的もなく夢の世界をさまよい歩く謎に満ちた作品だ。

TEXT BY JULIE MUNCY
TRANLSLATION BY ASUKA KAWANABE

WIRED (US)

ゆめにっき

IMAGE COURTESY OF YUME NIKKI

主人公の「窓付き」が最初に開けるドアは、無秩序に広がる森へとつながっている。森は静かだ。雑木林のなかには、お化けのような何かの姿が点在している。ただ、窓付きが近づいても反応はしない。

地面には巨大な虫の姿があり、窓付きの動きに合わせて移動する。まるで動く壁紙のようだ。窓付きは森をさまよう。その時間は、何時間にも感じられる。やがて、彼女は新しいドアをみつける。

「ゆめにっき」が描くのは、窓付きの夢の物語だ。ゲーム冒頭、窓付きは小さな部屋の中にいる。部屋にあるのは、テレビ、ゲーム機、本棚、机、そしてベッドだ。ガラス窓からはベランダに出ることができ、部屋の反対側には部屋の外へと続くドアがある。ただし、プレイヤーが窓付きをドアから部屋の外へ出そうとしても、彼女はドアを開けることを拒む。

やがてプレイヤーが彼女をベッドに連れていくと、彼女は横になって眠りにつく。そうして、彼女は夢をみる。「ゆめにっき」のはじまりだ。

2ちゃんねるに現れた謎のゲーム

このPCゲームは2004年6月26日のリリース以来、謎に包まれてきた。「リリース」という言葉は正確ではないかもしれない。正確には“現れた”のだ。ゲームは開発元の「ききやま」によって、2ちゃんねるで公開された。

制作に使われたのは「RPGツクール2003」。2DのRPGを制作するためのフリーソフトだ。つまり、誰でもこの謎の開発者になりうるということである。開発者はおそらく日本人だろう。公開の仕方を考えると、若い男性だった可能性が高い。わかっているのはそれだけだ。

ゆめにっきはその後、英語にも翻訳され、日本国内外で信者を集め始めた。ききやまは07年のver.0.10公開までに何度も修正を行った。そして、ききやまは姿を消した。その後、アップデートはなくなった。

一度もファンとまともに接触しなかったききやまは、もはや接触不可能となった。ききやまが最後にメールに返信したのは、2011年。東日本大震災の少し前のことだった。

それも今年までのことである。ゆめにっきがなんの前触れもなくゲーム配信プラットフォームのSteamに現れたのだ。2月23日にはリメイク版が発売される。販売元はKADOKAWA。ゆめにっき制作に使われたRPGツクールの発売元でもある。ゆめにっきの帰還だ。

無目的にさまよう、ただそれだけの世界

原作「ゆめにっき」で窓付きが次に向かう先は、暗闇に手が点在する世界だ。彼女は、かぶると頭がひとつ目の手になる帽子を手に入れる。

また別のドアの先に進むと、そこは色のない荒野だ。またあるドアの向こうには、ひたすら上り階段が続く。退屈なとき、怖くなったとき、窓付きは頬をつねって目を覚ます。しかし、再び眠りにつけばまた同じような夢が彼女を待っている。次の日も、その次の日も。

ゆめにっきは独特な雰囲気をもつ、夢の世界に富んだタイトルだ。しかし、従来のいわゆる“ゲームプレイ”と呼ばれる要素は、ほぼ完全に無視している。対話もなければプロットもなく、バトルもない。ゲームオーバーも不可能。最終目的が何かすら明示されていない。

ゲーム内には「エフェクト」と呼ばれる25のアイテムがちりばめられている。前述したひとつ目の手(めだまうで)のように、それぞれのエフェクトは窓付きの外見や周辺環境を変化させる。

エフェクトのなかには便利なものもあれば、無意味なものもある。エフェクトのひとつは、「ほうちょう」だ。ほうちょうを使えば、窓付きは夢に出てくるほとんどのキャラクターを殺すことができる。しかしキャラクターが死ぬ以外、ゲームに影響はない。ゆめにっきの開発は謎に包まれているが、ゲームそのものの不可解さによって謎はさらに深まるばかりである。

エフェクトをすべて集め終わったところでゲームは終わる。だがそれだけだ。ゆめにっきは目的もなくさまよい、不安で放心状態になるゲームなのである。

何も起こらないのに、恐ろしい

ききやまの創造したこのゲームで遊んでいると、忍び寄る不安を感じる。面白い場面や楽しい場面もあるが、ゲームの雰囲気は恐ろしく、無防備であるゆえの恐怖を感じる。

ゲームは夢の論理に従って進行する。つまり、論理なんてないということだ。夢のなかのドアは、また違う夢へとつながっている(ドア自体の姿もさまざまだ。開いた口、ベッド、宙に浮かんだ形など)。

登場する場所のなかには、デパートのように窓付きが現実世界で訪れたかもしれない場所もある。しかし、ほかはデザインやロジックがあまりに抽象的すぎて、説明するのも難しい。

さらにびっくりさせられるのは、ゆめにっきの衝撃的で予想外のイヴェントの数々だ。例えばある部屋では、電気を消してまたつけると恐ろしいお化けの顔が浮かんでくる。しかし、これがかかる確率は64分の1だ。

これほど小さな空間で起きるランダムなイヴェントは、ただ一様に恐ろしい。ゲームプレイとしては何も起こらないのに、これほど怖いゲームは、ゆめにっきをおいて過去ほかにないだろう。アクティヴィティの少なさと怖い雰囲気が一緒になって、プレイヤーをパラノイド的なアポフェニア(無意味な情報から規則性や関連性を見出す知覚作用のこと)に陥れる。

「この生き物を追えば、どこかに連れて行ってくれるんじゃないか」「最初は左右、次は上下に移動するのがいいかもしれない」「あの抽象的なかたちは、実は矢印なのかも!」

こういった直観は当たることもあるが、当たらないこともある。自分が見出したパターンにのっとって何かが起きたとしても、それが本当にこのゲームの法則なのか知るのは不可能だ。

静かにプレイヤーの計画に身を任せたゆめにっきはミニマルデザインなゲームであり、このゲームにデザイナーなどいないのではないかと思ってしまうほどだ。まるで、目を閉じたらふっと現れたゲームのようである。

互いに絡み合うふたつの謎

ゆめにっきのゲーム内外の謎の数々は、ほどけない結び目のように絡み合っている。まず主人公である窓付き自身の存在が謎だ。窓付きの静かな冒険の一秒一秒が、プレイヤーに彼女の正体を考えさせ、なぜ部屋の外に出たがらないのか疑問に思わせる。

彼女の夢のなかには、プレイヤーの想像をかき立てるような比喩表現がちりばめられている。目を引きつける手、発狂する怪物のような女性、派手な赤色や黄色をしたゆがんだ顔──。

なかには、自動車事故を連想させるようなものもある。もしかしたら窓付きは事故のトラウマを抱えているのかもしれない。あるいは、両親から虐待を受けているのか? 彼女はすでに死んでいて、煉獄のように繰り返し夢を見ている可能性だってある。

施錠されているようにも、立てこもっているようにも思えない彼女の部屋のドアの向こうには何があるのだろうか? 窓付きは本当は出られるはずだ。しかし彼女は、ただそれを拒む。

もう一つの謎は、窓付きの生みの親であるききやまだ。その正体は誰なのか。どこに行ってしまったのか。ゆめにっきのファンたちは、ゲームそのものの謎と同じくらいこの生みの親の謎に惹きつけられている。

あるものは、11年の東日本大震災の犠牲になったのではと推測している。あるいは、おそらくききやま唯一の有名作品であるゆめにっきの暗さから、自殺したのではないかと予想する者もあった。

ゆめにっきの再登場によって、KADOKAWAはききやまが少なくとも生きていることを証明した。KADOKAWAはまた、ききやまがゆめにっきプロジェクトに関与していることも認めている。しかし、それ以外はよくわかっていない。

ファンゲームや、原作者の許可を得た漫画などの準公式グッズも生んだファンコミュニティにとって、これらの謎はふたつでひとつだ。ゆめにっきから生まれたアートは、ゲームを伝記風に読み解き、ゲームのなかから原作者の人生や心理をつかもうとしている。

対になったふたつの謎は互いに調和し、つながりを感じられずにはいられないのだ。ゲームや二次創作、関連スレ、シリーズ形式のポッドキャストは、ききやまのゲームに影響を受けた人々がその謎を読み解こうと試みた結果なのである。

彼女とプレイヤーだけの日記

しかし、この読みにくさ自体がゆめにっきの、そしてききやまの魅力である。わたしがこの原稿を書いているいま[編註:原文初出は18年1月23日]、ゆめにっきプロジェクトのカウントダウンは続いている。それがどんなものなのかはわからないが、何らかのゲームであるといっていいだろう。まるでインディーバンドのニュートラル・ミルク・ホテルが10年のときを超えてツアーを始めたときのような感じだ。一度雲隠れした何かには、その後メインストリームになる可能性を感じる。

ただ、もし前述した謎が解けてしまえば、このゲームは何かを失うだろう。実感のあるものとなり、夢のようにかすみ、ありふれたものに変わってしまうのだ。ゆめにっきは確かに不安を誘うゲームだが、これはこれとして面白いのである。

ゲームをセーヴするとき、窓付きは夢日記をつける。彼女がその日記を誰かに見せることはない。知る限りでは、彼女にはそれを共有する相手がいないようである。これは彼女とプレイヤーだけの日記だ。そのことを忘れてはならない。

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