温暖化の影響で風力発電が窮地に? 「北半球の風」が弱くなる

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温暖化によって北極と赤道の温度差が小さくなり、北半球を吹く風が弱まってしまうかもしれないという研究結果が発表された。これにより、社会が「脱炭素化」へと向かう流れを後押ししてきた風力発電の存在意義が薄れてしまう可能性が出てきた。こうした事態に、どう対応すべきなのか。

TEXT BY ERIC NIILER
TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO

WIRED(US)

wind turbines

PHOTO: GETTY IMAGES

ヨーロッパ社会の「脱炭素化」を後押ししているのは、洋上に建設された巨大な風力発電施設だ。米国では何列も連なる風力タービンは主に内陸部に建設され、約2,500万世帯に十分な電力を供給している

ところが、新たな研究によれば、気候変動によって北半球のあちこちで風力が弱まり、発電できるエネルギーが大幅に減少する可能性があるという。北極圏の温暖化に伴い、北極と赤道の温度差が縮小しているためだ。この温度差は本来、大気のエネルギーを風や嵐などへと変える原動力となる。

北極が温暖化して赤道との温度差が小さくなると、米中央部や英国、中東の北部、アジアの一部地域で吹く風が弱まる。これは、温暖化に伴う気象変動がもたらす多くの影響のひとつにすぎない。科学者たちによれば、温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)の濃度が上昇し続けると、ハリケーンの勢力が強くなったり、「極渦」と呼ばれる北極および南極の上空にできる大規模な気流の渦が弱まり、大寒波が発生する可能性が高いという。

雑誌『Nature Geoscience』に2017年に発表された研究の主執筆者であり、コロラド大学ボルダー校で気候科学を研究するクリストファー・カーナウスカス准教授は次のように述べる。「わたしたちが得た結果は、風力がゼロになることを示すわけではありません。広範にわたる地域で10パーセント減少するというものです。とはいえ、些細な問題とは言えません」

風は地域ごとの気温差によって生じる。北半球では、赤道と北極との間の気温差が風のエネルギーをつくる。カーナウスカスは「気象が常に変化し続けるのは、赤道と北極の間のエネルギーに差があるからです。北極の温暖化は世界のどこよりも速く進行しているため、その変化を観察すれば今後、気候がどうなるかを予測できます」と説明する。

風力発電の現場は北半球から南半球へ

一方、南半球では状況が異なるようだ。いくつかの気候変動予測モデルによると、南半球では南方の陸地と海の温度差が拡大するため、風は強くなる。

南半球で風のパターンが変化すると、ほかにも影響が出る可能性がある。南極大陸の海岸線から暖かい水が大量に押し出され、その下にある氷河が溶けるスピードが速くなるなどだ。

カーナウスカス准教授の研究チームは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書から得た複数の気候予想を、タービン1基がつくり出せる電力量を計算するときに風力産業が利用している公式と組み合わせた。使われたのは、50年までと2100年までの大気中のCO2濃度が異なる10種類の気候モデルだ。

その結果、気象パターンの変化が原因となって北半球の大部分で起きる風の減少率は、2050年までに8~10パーセント、2100年までに14~18パーセントとなることがわかった。「人口も風力発電施設もほとんどが北半球に集中しています」とカーナウスカス准教授は指摘する。

さらに、利用できる風と、タービンがつくり出す風力エネルギーは、同じ割合で減少するわけではない。今回の研究には参加していないものの、南カリフォルニア大学で航空宇宙科学と機械工学を専門にするジェフ・スペディング教授は、「風力発電施設から得られるエネルギーの総量は大幅に減少するでしょう」と述べる。計算したところ、風力が10パーセント減少すれば、風から得られるエネルギーは30パーセント近く減少するという。

だからといって、風力発電の可能性がなくなるわけではない。気候の変化によって単に「風力発電のできる場所が北半球から南半球に移行するだけです」とカーナウスカス准教授は述べる。

研究では例として、オーストラリア東部や西アフリカ、ブラジル沿岸部など、風力発電の効果が大きいと見込まれる場所での予測を示している。損失が大きくなりそうなのは、この数年間で風力発電が急増している米中央部とスカンジナヴィア諸国だ。

「風を失う」風力発電施設はどうなるのか

このような変化によって、世界の風力発電市場に新たなプレイヤーが参入するかもしれない。特に、風力エネルギーを保存する経済的で効率のいい方法があれば、その可能性は高くなる。

風力発電施設を運営する業者は、風速や風向の変化を扱うのに慣れていると、スペディング教授は指摘する。そのため将来、利用できる風が少なくなっても、埋め合わせる方法を見つけるだろうという。

論文の共同執筆者であり、コロラド大学で大気科学を研究するジュリー・ルンドキスト准教授も同じ考えだ。地上から離れるほど風速は速くなるため、より高い位置で稼働する次世代型タービンの開発が進んでいるという。

背の高い風力タービンの回転翼の後ろでは「後流」と呼ばれる乱流が発生し、タービンに利用できるエネルギーを減少させる。この後流を減らすため、タービンの位置を変更したり、タービンを凧に乗せるといった手段[PDFファイル]が検討されている。

「既存の風力発電施設が稼働を停止することはありません。ですが、変化の兆しを見つけられるよう、警戒しておく必要があります」とルンドキストは述べる。現在、米国では電力の5パーセントを風力から得ているが、中西部の5つの州に限れば、風力による発電は20パーセントを超える。

米東海岸では2017年12月、地元の強い反対を受け、マサチューセッツ州マーサズ・ヴィニヤード島東側で予定されていた洋上風力発電計画「ケープ・ウィンド・プロジェクト」の中止が決まった。一方で、メリーランド州、ヴァージニア州、ノースカロライナ州の当局者や開発業者は、各州沿岸での海上プロジェクトによって石炭を燃料とするエネルギーが風力発電に置き換えられるよう望んでいる。

もちろん、北半球の風が徐々に減少すれば今後、建設される風力発電施設は窮地に陥る危険がある。あるいは少なくとも、環境に優しい電力を流し続けるための新たな技術を模索することになるだろう。

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