91歳の人気動物学者、アッテンボロー博士がホログラムに──英博物館を“案内”するVR映像ができるまで

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世界的な動物学者として人気の91歳、デイヴィッド・アッテンボローが仮想現実(VR)の世界に進出する。ロンドン自然史博物館のコレクションを解説するVR映像に、3Dホログラムとして登場することになったのだ。映像の歴史とともに生きてきた彼は、いかにカメラ106台からなるホログラム制作装置による撮影に臨んだのか。

TEXT BY MATT BURGESS
TRANSLATION BY RYO OGATA/GALILEO

WIRED(UK)

PHOTOGRAPH COURTESY OF HOLD THE WORLD

デイヴィッド・アッテンボローは、メディアにおけるイノヴェイションの歴史をよく知っている。「カラーテレビを見ることができる3人のうちの1人だったころを覚えていますよ」と、91歳になった英国の博物学者は語る。だから、ワシントン州シアトルにあるマイクロソフト本社でカメラ106台からなる装置に入ったのも、特別なことではなかった。

その目的は、アッテンボローのホログラムを制作することだった。アッテンボローを仮想現実(VR)へと移植するには、「ヴォリュメトリック・スキャニング(volumetric scanning)」という手法を使う。複数の動画フィードを圧縮して3Dオブジェクトをつくる[PDFファイル]ものだ。

アッテンボローが飛行機で米国にやって来る前には、制作チームのメンバーたちが彼のおなじみの青シャツを集め、それを着てカメラの前で照明設定をテストした。「じつに奇妙な装置です」とアッテンボローは語る。

しかし、こうした奇妙さはアッテンボローにとって初体験というわけではない。カラーテレビ放送の初期には、アナログ信号をすべて白黒とカラーの両方の方式で送信する必要があった。「誰にも知らせずに、あらゆる色の実験をする絶好のチャンスでした」とアッテンボローは語る。

当時の放送実験は肌の色の色調から始まり、ボウルに入った果物までテストしていた。そして、今回はホログラムを実験しようとしている。

8,000万点の標本をすべてデジタル化する壮大な計画

3Dホログラムになったアッテンボローが登場するのは、ロンドン自然史博物館の新作VR体験「Hold the World」だ。博物館のコレクションを解説するこのVRで、2018年春にグーグルのVRヘッドセット「Daydream」、サムスンの「Gear」、オキュラスの「Oculus Rift」向けに公開を予定している。

アッテンボローは3Dスキャンされたシロナガスクジラの骨格、巨大なチョウ、トンボ、ステゴサウルス、三葉虫の小さな化石、プテロダクティルスとして知られる翼竜の頭骨などを紹介してゆく。選ばれたのは全部で9点だ。

このスキャンは、ロンドン自然史博物館の標本8,000万点をすべてデジタル化するという、壮大な仕事の一環だ。

VRの世界に入ると、オブジェクトを操作できる。実際のサイズの最大11倍まで拡大もできる。本物のような迫真のアニメーションもある(制作者によると、ステゴサウルスがリアルな足どりで歩き出すという)。「3D部分が本当にリアルなのです。物体が向きを変え始め、さまざまな角度から見られます」とアッテンボローは語る。

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PHOTOGRAPH COURTESY OF HOLD THE WORLD

アッテンボローはこのVRが、専門家の動物研究にも役立つことを期待している。「この手法によって突然、さまざまなものを詳細に見られるようになりました。生物学の視点から考えると、実に素晴らしいことです。地球の反対側の人々のつくった標本からもサンプルを採取できるのです。これは民主化であり、普遍化だといえるでしょう」

「Hold the World」を依頼したのは、英国で衛星関連ビジネスを手がけるスカイが16年3月に設立したVRスタジオだ。技術プロセスは、Dream Reality Interactiveというスタジオと映像製作のTalesmithの協力を得て、ロンドンのFactory 42というスタジオがまとめた。プロジェクト全体は約1年半前から始まっており、100人近くが携わっている。

いまはまだ、技術的な限界がある。Factory 42の共同創業者であるジョン・キャシーとダン・スミスは、今回の制作ではさまざまな撮影と映像処理の手法を使って、自然史博物館の部屋や収蔵品を組み合わせていると説明する。

チンパンジーを再現するのが難しい理由

各部屋の奥のほうの壁は、手前のものほど詳細に映されない。また、動物の超微細な皮膚や体毛は、レンダリングに必要な演算能力が増えるため、再現性は高くない。将来的には、スローモーションで走ったチーターの被毛をすべて取り除き、骨格の動きまで示したいという。

「カラーテレビの発展のときは、ボウルに入った果物の扱いが課題でした。これに相当するのが、毛が生えたり羽に覆われたりしている生き物です。チンパンジーなんて大変でしょうね」とスミスは語る。

VRヘッドセットを装着すると、いつもの博学で生き生きとした、そしてこれが大事なのだが、実物大のアッテンボローが現れる。自然史博物館の3つの部屋の、腕を伸ばせば届く距離にいるのだ。ほとんどのファンにとっては、アッテンボローと直接やり取りするのと最も近い体験になるだろう。

技術的にも大成功といえる。ときにプレゼンターとして、ときに講師として、アッテンボローがまさにそこにいる感じがする。

このプロジェクトの最終的な目標は、アッテンボローが最近関わっているあらゆるものと同じこと、つまり「科学的発見の喜び」を伝えることだ。VRによる探索について、アッテンボローは何百万年も前のオブジェクトに「触れられる」ことに興奮を隠さない。「こうした手法が普及すれば、世界中の博物館が同様のことを行い、その成果を互いに交換できるようになるでしょう」

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