映画『ブラックパンサー』のテクノロジーを支える物質「ヴィブラニウム」は実在するかもしれない

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話題の映画『ブラックパンサー』で、舞台となるワカンダ王国のテクノロジーを支える金属「ヴィブラニウム」。この架空の素材のように、宇宙から驚くべき性質の金属がやってくる可能性はあるのか? スーパーマンの息の根を止める「クリプトナイト」や「ゲーム・オブ・スローンズ」の「ヴァリリア鋼」は? 映画やSF小説に登場する架空の物質が実在する可能性は科学的にあり得るのか、徹底検証した。

TEXT BY MASSIMO SANDAL
TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI

WIRED(IT)

PHOTOGRAPH COURTESY OF DISNEY/MARVEL STUDIOS

映画『ブラックパンサー』を観た人は、その舞台となるワカンダ王国──アフリカにあるとされる、想像上の未来的な国家だ──のもつテクノロジーの大部分に、ある驚くべき物質が使われていると気づいただろう。宇宙からやって来た金属「ヴィブラニウム」だ。

もちろん映画やコミックス、そのほかのSF作品に登場する架空の物質はこれだけではない。テレビドラマでも『スタートレック』の「ダイリチウム」から『ゲーム・オブ・スローンズ』の「ヴァリリア鋼」まで、さまざまな物質が使われている。

これらは完全に想像の産物なのだろうか。それとも、少しでも真実が含まれているのだろうか?

金属でできた隕石が宇宙から落ちてくる可能性

“マーベル・ユニヴァース”(マーベル作品が共有する架空の世界)では、ヴィブラニウムは隕石として地球外からやって来た金属で、さまざまな驚くべき性質をもつことになっている。振動や衝撃を吸収する(これが名前の由来となっている)という、とてつもない特性のために、キャプテン・アメリカの盾の最高の素材となっている。

ヴィブラニウムには主に2つの変種がある。「ワカンダのヴィブラニウム」と「南極ヴィブラニウム」だ。後者は振動を発し、ほかの金属を液体化させることができる。

これに対して、『アベンジャーズ』に登場するウルトロンの鎧や『X-MEN』シリーズのウルヴァリンの骨に使われている物質が「アダマンティウム」だ。事実上、破壊できないとされる合金で、まさにヴィブラニウムを模造して発明された。

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隕石からつくられたインド・ムガール王朝ジャハンギル皇帝の刀。PHOTO: WIKIMEDIA COMMONS

話を現実に戻して、驚くべき性質の金属が空から落ちてくる可能性を科学的に検証してみよう。周期表は宇宙のどこでも同じだ。そして、小惑星のなかには実際、ほとんどすべて金属でできていて、想像もつかないほど豊かな鉱物資源となり得るものもある。

隕石に含まれる金属が歴史上、武器をつくるのに使われてきたのは事実だ。しかし、これらは完全に普通の鉄やニッケルである。

「ヴィブラニウム」に最も近い素材とは

ヴィブラニウムと比較できる素材は存在するだろうか? おそらく「炭化タングステン」がこれに近い。鉄の2倍の剛性と、金属としての電気伝導性をもつ。硬度でダイヤモンドに劣るだけだ。

しかし、軽量なヴィブラニウムと異なり、炭化タングステンは非常に重い(密度は金と鉛の間だ)。そしてずっと脆い。ハンマーで叩くと炭化タングステンの指輪(そう、結婚指輪や婚約指輪の素材として人気がある)は割れる。

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炭化タングステンでつくられた指輪。PHOTO: WIKIMEDIA COMMONS

もうひとつの有望な物質は、ダイヤモンドのナノフィラメントだろう。これは非常に軽く、柔軟で、信じられないほど頑丈だ。アダマンティウムの優れた代替品となる。

振動をエネルギーに変換する物質の存在は19世紀末から知られている。力学的な刺激を電力に変換する圧電性の物質だ。クォーツ時計からライターまで、いたるところで使われている。さらに、原子間力顕微鏡や走査型トンネル顕微鏡といった最先端の機器にも応用されている。

それほど知られていないが、より興味深いのは、多くの生物素材が導電性である点だ。骨やDNAに加え、なんとあらゆるウイルスもそうだという。つまり、われわれにはいくらか“ヴィブラニウム”が存在するのだ。

では、ほかの金属を溶かす南極ヴィブラニウムはどうだろう。離れていながら、ほかの金属を破壊できる金属は存在しない。しかし、液体金属である水銀の滴がアルミニウムの棒に何をするか見てほしい。

水銀はアルミニウムと混じり合うと、物体の上に自然に存在する酸素の被膜をかき乱し、アルミニウムは常時、空気と反応し続けられるようにする。そして、アルミニウムは破壊的なスピードで錆びてゆくのだ。

放射性金属と“同じ効果”をもつ「クリプトナイト」

いつの時代も最強で無敵の英雄、スーパーマンを打ち負かすことができる唯一の物が、まさに「クリプトナイト」だ。スーパーマンが生まれたクリプトン星の鉱物(通常は緑色)である。クリプトナイトはまず彼を衰弱させ、その後、ゆっくりと息の根を止める。

クリプトンという元素も存在するが、いわゆる貴ガスだ。ほとんど完全に不活性で、損害を与えることはない。映画『スーパーマン・リターンズ』ではクリプトナイトの組成が明かされたが、少し前にこれとほとんど同じ化学組成をもつ鉱物も発見された。しかし特別な効果は何もない。

われわれにとってのクリプトナイトは、おそらく放射性金属だろう。最も物議をかもす例として、マリー・キュリーが挙げられる。彼女の健康は死に至るまで悪化した。放射性同位体の危険性を知らず、何の注意も払わず取り扱っていたからだ。ポロニウムやラジウムの瓶をポケットに入れて歩き回っていたのは有名な話である。彼女の研究ノートは放射性を帯びており、鉛の箱の中で保管しなければならない。

そして化学元素ポロニウムはまさにその危険性ゆえに、諜報機関が不都合な人々を片づけるために使用する。2006年に何者かに殺されたロシアの諜報員、アレクサンドル・リトヴィネンコにも起きたことだ。パレスチナ自治政府大統領だったヤーセル・アラファートもおそらく同じ理由で死亡したのだろう。

不死の種族をも打ち負かす「ヴァリリア鋼」

スーパーヒーローたちの世界から、「ゲーム・オブ・スローンズ」の鉄の玉座の世界へと目を移してみよう。そこには、特殊な物質が2つある。

1つは伝説的な「ヴァリリア鋼」だ。これでより強く、軽く、鋭利な剣がつくられ、不死の種族とされるホワイト・ウォーカーをも殺すことができる。『WIRED』イタリア版は2015年4月、ヴァリリア鋼の秘密についてすでに取り上げ[イタリア語版記事]、大きく紹介している。

今回は、ダマスカス鋼からインスピレーションを得ているようだという点についてのみ、紹介しよう。非常に丈夫で鋭利な古代の刃の材料で、その特性にはカーボン・ナノチューブの存在が関係しているようだ

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黒曜石でつくられた儀式用ナイフ。PHOTO: WIKIMEDIA COMMONS

『ゲーム・オブ・スローンズ』で何度も出てくる物質がもう1つある。「ドラゴングラス」という岩石だ。これもホワイト・ウォーカーを倒すことのできる数少ないものの一つで、切れ味が良く、黒く、まさにガラスのような外見をしている。

モデルは黒曜石だろう。石英の豊富な溶岩が急速に冷やされるときに形成される鉱物だ。イタリアでは主にリーパリ島、パンテッレリーア島、サルデーニャ島のモンテ・アルチで見られる。新石器時代に刃を作るために実際に用いられた。

われわれは、うろつき回るホワイト・ウォーカーを殺す必要がないので、黒曜石を別の目的で利用している。手術用のメスレコードプレーヤーのベースなどだ。

常温ですべての水を固体に変える「アイス・ナイン」

カート・ヴォネガットのSF小説『猫のゆりかご』では、“黙示録的な性質”をもつ物質がすべての中心となる。「アイス・ナイン」だ。水以外の何物でもないが、分子の形態が特殊で、常温でも固体のままとどまることができる。

アイス・ナインは液体の水をアイス・ナインに変えるという、連鎖反応を起こすことができる。アイス・ナインが1粒でも海に投げ入れられたら、すべての海を単一の固体の塊に変え、地球上の生命を根絶やしにしてしまうだろう。

アイス・ナインと呼ばれる氷の形態も実際に存在する。ただし、低温と大変な高圧下でしか安定しない。そして、普通の水をアイス・ナインに変形させることは絶対にできない。

しかし、このSF小説の背後にあるメカニズムは、まったくばかげているわけではない。この種の物質の仮説を立てたのは、なんと「物理化学の父」として知られる人物だ。1932年にノーベル物理学賞を受賞したアーヴィング・ラングミュアである。

アイス・ナインと同じくらい不安にさせられ、実際に致命的な影響を与える分子は、なんとわれわれの脳内に見つけることができる。それはプリオン、いわゆる狂牛病などを引き起こすタンパク質だ。プリオンタンパク質は、脳内にある普通のタンパク質だが、少なくとも2つの形態で存在しうる。健康なものと、病気のものだ。

異常なプリオンは、ほかの健康な分子を病気に変えてしまう。最終的には、タンパク質が連鎖反応を起こして集合体や繊維体の形で蓄積し、ニューロンを殺す。“ゾンビ病”とも呼ばれる狂牛病などを引き起こす変種のひとつだ。

同様のメカニズムは、アルツハイマー病やパーキンソン病との関わりも示唆されている。指摘すべきは、ヴォネガットの小説が1963年の作品で、プリオンは82年にようやく発見されたことだ。現実を予期するSFの好例といえる。

光速で銀河を旅するための「ダイリチウム」

トレッカー(『スタートレック』のファン)なら誰でも、光を優に超える速さで銀河を旅するワープエンジンが、貴重な「ダイリチウム」でしか機能しないと知っている。唯一の特徴は、その結晶格子の内部に相当な量の反物質を含むことだ。反物質を制御することで、恒星間旅行に必要となる莫大な量のエネルギーをコントロールできる。

さて、軽金属リチウムの原子2つで構成される分子、ダイリチウムは本当に存在する。ただし気体だ。そして、基礎化学・物理の研究のための有益なモデルではあるが、それ以外に技術面で特別な利用法はない。

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核融合反応ロケット技術を使った宇宙船のイメージ。側面のソーラーパネルで核融合のプロセスを始めるためのエネルギーを集める。IMAGE COURTESY OF UNIVERSITY OF WASHINGTON, MSNW

しかし、リチウム(「ダイ」なしの)なら、惑星間の旅行に役立つだろう。実際、核融合反応ロケット技術の基本的な構成要素となりうる。リチウムとアルミニウムのリングを磁場の下で制御し、重水素とトリチウムの燃料を圧縮して核融合を起こすのだ。

というわけで、ワープエンジンのことは忘れよう。光速での旅はまだ手の届かない遠い存在だ。しかし将来、このコンセプトが実現すれば、火星へ1カ月でたどり着けるようになるだろう。

重力を打ち消す金属「ケイヴァーリット」

『スタートレック』よりずっと前に、SFの高貴な父であるH・G・ウェルズは宇宙飛行を可能にする架空の物質を思いついていた。1901年の小説『月世界最初の人間(The First Men in the Moon)』(プロジェクト・グーテンベルクのおかげで無料で読むことができる)では、ケイヴァー博士がある物質を発見する。重力を打ち消す金属「ケイヴァーリット」だ。

正確には、ケイヴァーリットの上にあるすべての空気の重さがなくなる。そして下にある空気の圧力が、ケイヴァーリットの標本を上に向かって発射する。ケイヴァーリットを基にしたロケットにより、ケイヴァー博士と仲間の事業家ベッドフォードは、月に到達する。彼らは月に住む奇妙な存在を発見する。

ウェルズのケイヴァーリットはその後、ほかのSF作品でも再び取り上げられる。なかでも最初のものはおそらく、アラン・ムーアが原作を、ケヴィン・オニールが作画を担当したアメコミ『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン(「超絶紳士同盟」の意)』だ。

われわれの知る限り、重力を変化させられる物質は存在しない。重力は物質の質量によらず、分け隔てなく決定される引力だ。ある種の超伝導物質が重力波の鏡になるという理論もあった。しかし、これが証明されたとしても、重力をなくすことにはならないだろう。

ここで、重大かつ未解決な事柄がある。反物質は重力に対してどのように振る舞うのだろうか? 重力についてわかっているのは、「物質の振る舞いから導き出され、反物質によるものではない」ということだ。物質の塊と反物質の塊が互いに引き合うか、はねつけ合うかが実験によってわかっているわけではない。

大部分の理論は反物質について、普通の物質と同じように重力によって引きつけられるとし、重力は物質の塊と反物質の塊を区別しないとしている。研究はいまも続けられている。そして、いつの日か、ヴィクトリア朝時代の英国でウェルズが想像したように、ひと固まりの反物質が空に向かって飛び出すのを見る日がこないとも限らないのだ。

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