SXSWで真価を問う、家電業界のイノヴェイション

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パナソニックの社内カンパニーであるアプライアンス社が2016年4月に立ち上げたプロジェクト「Game Changer Catapult」(以下、GCカタパルト)は、アプライアンス=家電の常識を変えようとしている。家電領域を中心とした新規事業の創出と、それらをリードする人材育成の加速を目的としたこの取り組みだ。(雑誌『WIRED』日本版VOL.27より転載)

PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY FUMIHISA MIYATA

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パナソニック アプライアンス社による、社内アクセラレーターGCカタパルト。

家電には、いまだ汲み尽くせていないポテンシャルが眠っている。その信念のもとに、パナソニック アプライアンス社がスタートした「GCカタパルト」。社員を対象とした新規事業公募制度を運用し、同時に社外との協創によるオープンイノヴェイションに取り組む企業内アクセラレーターであることは、前回お伝えした通りだ。

家電の新時代をつくる

GCカタパルトの事業開発リーダーの真鍋馨は「仮説を立て形にし、絶えず修正を加えるリーン・スタートアップも含め、当たり前のことが当たり前にできる環境を大きな企業体のなかで目指したい」と話す。

同運営陣の鈴木講介も、「事業のポートフォリオ自体を書き換えられるような、新たなヴィジョンや商品を生み出さなければ」と決意を語った。プレゼンテーションを勝ち抜いた8チームのプロジェクトメンバーは、試行錯誤を繰り返し、試作品をつくりだしていく。

進行中のプロジェクトを語る彼らの顔は、皆とても晴れやかだ。ポジティヴなムードが満ちている要因のひとつは“共感”だろう。GCカタパルトは家電=ハードウェアという枠組みを取っ払い、既存の事業形態では考えられないようなサーヴィスまで含めて探究する。

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Ambient Media Player | 住空間に調和するディスプレイと、そこに流れる音と映像のキュレーションサーヴィスを一体化させたプロジェクトを追求している。「単なるハードだけでは届きにくい、B to Cのサーヴィスの可能性、体験の価値というものを考えていきたいですね」(森下浩充)

商品企画やマーケティングの担当者、デザイナーといった部署間をまたいでアイデアマンが集まる社内の状況、そして社外とのアイデアの昇華が、このプロジェクトの大きな刺激となっているのだ。シリコンヴァレーでの産学連携を経験したヘルスケアウェアラブルチームの秋元伸浩は、「新時代をつくるという熱意と、一気にプロトタイプを作成して具体的な議論から実現へ至ろうとするスピードに触れて、新たな道が開いていく感覚を抱いています」という。

一気にユーザーのニーズに歩み寄れる“共感”の喜びが、メンバーの胸のうちに溢れているのだ。住空間におけるディスプレイの可能性を探るチームの柱である谷口旭は「商品のユーザーとメーカーといった壁が崩れていく感覚を体感しています」と未知の境域に新鮮な驚きを覚え、洗濯機の新規ソリューションチームに属する大倉さおりは「商品開発のあるべきサイクルをしっかり回せることに、とてもやりがいを感じます」と顔をほころばせた。

事業化という目標

2017年3月には「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」への参加が決定している。社内スタートアップをいち早くイノヴェイションの最前線へ提示し、そこで得られた知見をまたスピーディーにフィードバックしていくのが狙いだ。GCカタパルト代表である深田昌則は、力強く宣言してくれた。「たしかに、家電業界は現在とても厳しい。しかしそんないまだからこそ、大きく全世界に向けて“新たな家電”を携えて羽ばたいていくことにチャレンジしたいと思っています」

GCカタパルトの新規事業社内公募のしくみ

1 2015年、10年後を見据えた計画を練る
2025年に向け中期経営計画を立案するなかで、社内の事業再建や構造改革という枠に収まらない、今後の家電の市場を支えるアイデアを育てるという方針が固まる。

2 2016年4月「GCカタパルト」が始動
社内の公募が始まる。社内の有志で新しい家電の開発を行っていたチャレンジングな社員たちや、志を一にする者と偶然に出会いチームに合流する社員も。

3 2016年7月21日 第1次選考会がはじまる
書類選考の結果14テーマが通過。プレゼンテーション審査会では、テーマ5つ、チャレンジテーマ2つが選ばれた。戦略的テーマのチームも合わせ試行錯誤の日々へ。

4 2016年12月27日 最終プレゼンテーション
SXSW進出をかけた2度目のプレゼンテーション。試作機を持参して経過を発表するチーム、オープンイノヴェイションでの開発を報告するチームなど、結果8チームを選出。

5 2017年3月クリエイティヴの祭典SXSWへ出展
2017年3月SXSWに参加。深田・GCカタパルト代表は、「最終的に成功体験にできれば、また第2、第3のイノヴェイションも喚起していけるのでは」と意気込む。

6 最終的に事業化を目指す
「GCカタパルト」は、各チームがSXSWに出展することをひとつの区切りとしながらも、最終的にはSXSWで発表したプロジェクトを事業化し、製品化を目指す。

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    1/6Ambient Media Playerは自主的にスタートしていたチーム。既成概念を覆す、絵画の額縁のような新しいディスプレイを提案する。

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    2/6TAKT | ヘルスケア分野のウェアラブルを中心に、多様なアイデアをブレストしているチーム。MITメディアラボや、NYのパーソンズ美術大学において、産学連携のワークショップや連携授業を展開。技術本部で主幹技師の任にある小川智輝は「オープンイノヴェイションで触れた“外”のスピード感を、社内にもち帰ることも課題」と話す。

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    3/6学生たちの意見を取り入れながら、新しいウェアラブルを模索する。機能面、デザイン面ともに、試行錯誤を繰り返していく。

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    4/6MonStyle | オシャレ着をハンガーにかけて、夜にセットしておくだけで、朝には乾燥が終わっていてしかもアイロンいらず。エネルギッシュな女性チームが掲げる衣料ケアの新たなヴィジョンだ。「洗面所の空間をドラスティックに見直したとき、そこに入る新時代の衣類ケアは何だろうと考えました。オシャレの幅がひろがるはずです」(安藤真理子)

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    5/6普段から洗濯機の開発に携わるメンバーで構成されたMonStyle。GCカタパルトを勝ち抜き、SXSWへの出展が決まった。技術者からデザイナーまで、すべて女性という異色のチームが、今回のプロジェクトで開発を進める試作品。

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    6/6GCカタパルトの主要メンバー。左から事業開発リーダーの真鍋馨、GCカタパルト代表の深田昌則、鈴木講介。

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Ambient Media Playerは自主的にスタートしていたチーム。既成概念を覆す、絵画の額縁のような新しいディスプレイを提案する。

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TAKT | ヘルスケア分野のウェアラブルを中心に、多様なアイデアをブレストしているチーム。MITメディアラボや、NYのパーソンズ美術大学において、産学連携のワークショップや連携授業を展開。技術本部で主幹技師の任にある小川智輝は「オープンイノヴェイションで触れた“外”のスピード感を、社内にもち帰ることも課題」と話す。

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学生たちの意見を取り入れながら、新しいウェアラブルを模索する。機能面、デザイン面ともに、試行錯誤を繰り返していく。

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MonStyle | オシャレ着をハンガーにかけて、夜にセットしておくだけで、朝には乾燥が終わっていてしかもアイロンいらず。エネルギッシュな女性チームが掲げる衣料ケアの新たなヴィジョンだ。「洗面所の空間をドラスティックに見直したとき、そこに入る新時代の衣類ケアは何だろうと考えました。オシャレの幅がひろがるはずです」(安藤真理子)

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普段から洗濯機の開発に携わるメンバーで構成されたMonStyle。GCカタパルトを勝ち抜き、SXSWへの出展が決まった。技術者からデザイナーまで、すべて女性という異色のチームが、今回のプロジェクトで開発を進める試作品。

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GCカタパルトの主要メンバー。左から事業開発リーダーの真鍋馨、GCカタパルト代表の深田昌則、鈴木講介。

“家電”の枠に捉われない8つのプロジェクト

GCカタパルトでは、上記で紹介する3つのチームのほかに、5つのチームが選考を通過し、計8チームがSXSWへの出展に向け、新規プロジェクトに取り組んでいる。家電メーカーの雄として培ってきた経験と、若手からベテランまで、アプライアンス社員が本来もち合わせている好奇心によって、従来の「家電メーカー」の枠を越えた、これまでにないアイデアが光るプロジェクトとなっている。

チーム「The Ferment」は生活者を産地や専門家とつなげ、季節・ライフスタイルに合わせた発酵食づくりを目指す。「DELI Softer」は嚥下食が必要な人が「食べる喜び」をいつまでも実現できるような家電を模索。「CaloRieco」は、手軽かつ高精度に食品の栄養情報を測定し食事管理をサポートできる仕組みにトライしている。「SakeCooler」は、生活者と蔵元をつなげ、楽しいお酒の体験の提供を試みる。「Bento#4U」は、一人ひとりにピッタリの、美味しく、ヘルシーで、栄養バランスのとれたランチをいつでも提供するという課題に取り組んでいる。

Game Changer Catapult

雑誌『WIRED』日本版最新号は「サイエンスのゆくえ」を90ページに渡って大特集! かつて人類に自由や豊かさをもたらしてくれた科学は、いつしか人を、科学自身を、窮屈な機械論的世界のなかに閉じ込めてしまった。果たして科学は、いかにしてみずみずしさと驚きを取り戻せるのか? 

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