「マヌカハニー」は誰のもの? ニュージーランドとオーストラリアの“綱引き”の行方

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健康や美容によいとして、セレブたちにも愛用されている「マヌカハニー」。その商標をめぐって、ニュージーランドとオーストラリアが争いを繰り広げている。

TEXT BY ELLEN AIRHART

WIRED(US)

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PHOTO: WELCOMIA / 123RF

「マヌカハニー」は、ただの蜂蜜ではない。これは、普通の蜂蜜の6倍近くの値段で売られるニュージーランド産の甘いぜいたく品だ。セレブたちも大勢惹きつけており、プロモーション契約を結んだコートニー・カーダシアンは、自分のゆるぎない健康状態ともち肌はマヌカのおかげだと断言している(彼女は最近「番組撮影のとき、クルーたちはスプーン一杯のマヌカを食べるの」とアマゾンのスタイルチャンネルで話していた)。

ハリウッドから7,000マイル以上離れたところでは、生物学者のサイモン・ウィリアムズが、オーストラリアでのマヌカブームへの便乗を助けようとしていた。彼はオーストラリア中の森林地帯をトレッキングし、野生動物から身をかわしながら、マヌカと同じような特質をもった樹木を探し回っている。「ウォンバットが1匹、ぼくの足にしつこくキスマークをつけようとしてきたんだよ」と、ウィリアムズは言う。

しかし、ウィリアムズが調査している樹木からマヌカハニーが生み出されていると、誰もが思っているわけではない。どうやら、“本物の”マヌカはニュージーランドでしかとれないらしいのだ。というのも、ニュージーランドのUMF蜂蜜協会が「マヌカハニー」という名称の商標登録を申請したからだ。申請が受理されれば、フランスのある地方でのみスパークリングワインを「シャンパン」と合法的に呼ぶことができるのと同じように、ニュージーランド人も「マヌカハニー」の名称を国際的に独占使用することができるようになるだろう。

マヌカハニーには、独占しておく以上の魅力がある。カーダシアンの風邪知らずがマヌカハニーのおかげだという証拠はないが、確かにマヌカには抗菌作用がある。ほとんどの蜂蜜には過酸化物が含まれているため、一部の細菌を殺すことができる。これに対してマヌカハニーは、細菌同士のコミュニケーションの遮断や活動抑制、消化酵素および細胞壁の破壊といったさまざまな方法で細菌を攻撃する。この複雑な攻撃戦略のために、マヌカハニーは抗生物質に耐性のあるMRSAのような細菌に対しても効果が高いのだ。

抗菌作用以外にも、マヌカハニー(およびその他の蜂蜜)には傷を治す作用がある。例えば研究者たちは、やけどの傷口に蜂蜜を塗ると傷の治癒が4~5日早くなることを発見した。「蜂蜜が傷口の炎症を抑え、殺菌し、傷を治してくれるため、組織が再生するのです」と、オーストラリアのサンシャインコースト大学でウィリアムズに助言を与えている生化学者のピーター・ブルックスは言う。ブルックスは現在、マヌカの抗炎症特性について研究している。

何をもって「本家」とするか

その健康効果やセレブによる宣伝のおかげで、マヌカの需要は急速に高まっている。ニュージーランドの蜂蜜の輸出は、2014年の2億200万ドルから2015年には2億8,500万ドルに跳ね上がった

当然のことながら、ニュージーランドは誰もが欲しがるブランドを我が物にしようと戦っている。ニュージーランドのUMF蜂蜜協会代表のジョン・ロークリフは、オーストラリアのマヌカを「ティーツリー」または「ジェリーブッシュハニー」と呼んでいる。

しかし、オーストラリアの人々はオーストラリア産とニュージーランド産に科学的に有意な差があるとは考えていない。「マヌカハニーに含まれる有効成分は同じなのです」と、ブルックスは言う。

ブルックスには自信がある。なぜなら、マヌカハニーの主成分を特定するために、すでに多くの研究が行われてきたからだ。こうした研究の主な目的は、マヌカハニーの生産者を偽造品から守ることだった。悪徳蜂蜜業者は、マヌカにほかの蜂蜜を混ぜたり、不正表示を行ったりしている。時には、蜂蜜を加熱することでテストをすり抜けようとしたり、マヌカ特有のケミカルマーカーを直接ミツバチに食べさせたり、ひどいとマヌカの木を揺さぶって花粉を蜂蜜に直接入れる業者もいる、と英国食料環境研究庁のエイドリアン・チャールトンは言う。

ペテン師たちの企みをくじくため、ニュージーランドの研究者らは当初、マヌカハニーの抗菌作用のもとである「メチルグリオキサール」の含有量をテストしていた。メチルグリオキサールは、マヌカの花の蜜からとれる糖質、ジヒドロキシアセトンに由来する成分だ。しかし、蜂蜜を加熱したり長期保存したりすることで、人工的にジヒドロキシアセトンをメチルグリオキサールに変えることもできる。また、研究室でもジヒドロキシアセトンを生成できてしまうため、マヌカハニーの安全性の問題を深めることにもなった。

チャールトンのチームや、蜂蜜業界や政府の取締官たちは、正真正銘のマヌカハニーを特定できる確実な方法を必要としていた。そして2014年、ついに加藤陽二という日本の研究者が、簡単に複製されない複合化合物をみつけた。レプトスペリンと名付けられたその化合物は、いまではマヌカハニーが本物かどうかを見分ける一般的な基準となっている。

しかし、まだ問題も残っている。ブルックスによると、オーストラリアのマヌカにもレプトスペリンが含まれているというのだ。「ニュージーランドのマヌカ製品とオーストラリアのマヌカ製品は同等なのです」と彼は言う。

「違いを生むのは環境なのです」と、UMF蜂蜜協会のロークリフは断言する。ワインと同じように、オーストラリアとニュージーランドの土や日光、気候の違いが、蜂蜜の違いを生むのだと彼は主張する。「ナパバレーでつくられたワインは、ニュージーランド産のワインとはまったく違います」と、ロークリフは言う。この主張は、土が変わるとマヌカからとれる蜜の量が変化するというニュージーランド・ジャーナル・オブ・ボタニーの研究によって、いくらか裏付けられている。それでも、蜂蜜がもつ抗菌作用に変わりはない。

しかし、論争の渦中にあるこの木は、実際には多くの国々で、さまざまな条件の元で生育している。マヌカの木はとても頑丈かつ生長が早いので、一部の地域では侵入生物指定となっている。とはいえ、マヌカの木は南オーストラリアとニュージーランドにいちばん多く生育しており、先住民であるマオリの人々がフェンスの支柱や槍、屋根ふき材、香りつきのトイレ用オイルにまでこの木を利用していた。

UMF蜂蜜協会では、この文化的かつ地理的遺産により、ニュージーランド人には「マヌカ」という単語について独占権が与えられるべきだと主張している。協会は、ニュージーランド知的財産庁に対し、商標登録申請を行った。登録されれば、協会はマヌカの名称を承認なしに使用する業者に対し、訴訟を起こすことができるようになる。

商標をめぐる争いがどうなろうと、誇り高いオーストラリア人であるブルックスは、ニュージーランドがマヌカの所有権を主張しようとするのは皮肉だと考えている。「おかしなことに、ニュージーランドのマヌカは、実際にはタスマン海周辺のいたるところで花を咲かせているオーストラリアの植物なのです」と、ブルックは言う。「言ってみれば、ニュージーランド人はオーストラリアの植物の版権をとろうとしているのです」。これには間違いなくニュージーランド人が異議を唱えるだろう。

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