トランプ時代を生きる政治学者たちの受難と憂鬱

170315-GettyImages-165903061-1024x772-327e0efcf9a4a7052896047f2f2274f722b6f429

大統領選以来、以前にも増して公の場に顔を出すようになった政治学者たち。政治と科学というふたつの領域の間にいる彼らは、その曖昧な立場ならではのジレンマを抱えているようだ。

TEXT BY EMMA GREY ELLIS

WIRED(US)

イラスト

IMAGE: GETTYIMAGES

やぁ、調子はどう? そう問いかけてみる。

「不安だ」と、オハイオ州立大学の政治学者マイケル・ネブロは言う。

「弱ってます」。ノースウェスタン大学の政治学者カレン・オルターは答える。

「最高ですよ」と、ウェスタンオンタリオ大学の政治学者ドナルド・アベルソンは返す。

「いつになったら悪夢が終わるんだ」と、アメリカン大学の政治学者パトリック・ジャクソンは言う。

科学者にとって不可思議な時代だ。予算は減らされ、政界からは冷遇され、“悪党”と化していく同業者もいる。そして専門が政治学だったらどうだろう? 事態はさらに悪くなる。

問題の核心はこうだ。国に関する喫緊の課題で、しかも特定の政党に寄ったテーマが、自分の研究分野に降りかかってきたとしよう。そんなとき、客観性を欠いている思われずに変化を擁護することができるだろうか?

なかなか厄介な問題である。科学コミュニティーは、社会科学が科学として“価値ある”ものなのか、いまだ確信をもてずにいる。そしてアカデミア全般は、融通が利かずわかりにくい序列を強要し、自分のいる場所に居座り続けることを良しとする。つまり、閉鎖的なのだ。

だが、政治学者たちの間で活発になっているのは、“象牙の塔”から外に出て、自分たちの考えを市民に直に語りかける動きである。どのようなタイプの知識人であっても、専門誌や学会誌、カンファレンス、インターネットなど、情報発信の方法はいろいろともっているものだ(ほとんどは内輪に向けてのものだが)。

「あなたがポスト・テニュア[編註:大学などの高等教育における、教職員の終身雇用資格]の身分でないなら、キャリアアップする方法は同業者に自分を印象づけることです」と、アメリカン大学のジャクソンは話す。「ちょっとずつ内容を変えて、12本くらい同じような記事を書くんです。そうすれば、自分の名前がたくさん露出しますからね」

しかし、その方法もだんだん効果が薄れてきている。アカデミアの信奉者が減り、その影響力がどんどん失われてきているからだ。「政治への発言力、説明的なことを減らす能力、とるべき策を提案する能力。そのどれをとっても、シンクタンクやNGOのほうが一枚上手なのです」と、ウェスタンオンタリオ大学のアベルソンは語る。「この傾向によって、自分たちの殻にこもり、ハードコアで抽象的な科学ばかりを行ってきたアカデミアの人々が萎縮しているように思います」。そのうえトランプ政権が専門家とデータを拒絶しているのは、もはや常識である。

プラスの面もある。現在の政治状況のおかげで、いま何が起こっているのかを説明するチャンスがたくさんあるのだ。「理論を実践に結びつけるまたとないチャンスです」と、アベルソンは言う(わたしたちが話を聞いた人たちのなかで、彼だけが上機嫌だったのもうなずける)。

政治学者たちはテレビの“顔”になり、ブロガー抗議書キャンペーンの当事者としても、活発な政策論争に加わるようになっている。あるいは、国民が政府に抗議するためのツールを開発する政治学者もいる。たとえばオハイオ州立大学のネブロは、政治家と地元有権者との間で行われるオンライン上のタウンミーティングのプラットフォームを生んだ。

アカデミアではよくあることだが、ツールやアドヴァイスを携えて公の場に顔を出している同業者に対して、懐疑的な目を向ける政治学者もいる。なぜなら、こういった露出は倫理的にはグレーか、完全アウトとされるからである。それでも研究者たちは、再びワシントンでデモ行進をしようとしている

政治学者たちは、もしかしたら研究所の建物内で過ごしているほかの分野の同業者たちよりも、痛切にストレスを感じているのかもしれない。「慎重に行動しなくてはいけません。ほかの分野の学者たちの多くが、政治学をちゃんとした科学として考えてくれないので」と、ネブロは言う。

その通りだ。これは複数の分野にまたがる科学的な不満である。政治学者がこの状況を打開するためにできることは少ない。このため、彼らの一部は新しい役割を受け入れようとしている。彼らの仕事の重要性を語られないままにしておくくらいなら、ほかの学者たちに嘲笑されることもいとわないだろう。「この変化に満ちた世の中において、政治を理解してもらう方法を実験することなどできません」と、ノースウェスタン大学のオルターは語る。「そういうことをするのは、平凡な社会科学の役割です」

同業者だけが読む難解な専門誌に顔をうずめた学者でいっぱいの分野は、好機を逃す。しかし研究者たちが、「CNN」「FOXニュース」が取り上げる話題や流行にあわせて、自分の仕事のレヴェルを下げたり、調整したり(あるいは歪曲さえしたり)することは、悪の科学である。このバランスをとるのは難しい。政治学者が政治学をどのように感じようとも、皆そのことについては賛成するはずだ。

雑誌『WIRED』日本版最新号は「サイエンスのゆくえ」を90ページに渡って大特集! かつて人類に自由や豊かさをもたらしてくれた科学は、いつしか人を、科学自身を、窮屈な機械論的世界のなかに閉じ込めてしまった。果たして科学は、いかにしてみずみずしさと驚きを取り戻せるのか? 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

話題をチェック

  1. 600x601x20170822nana.jpg.pagespeed.ic.u5ed1iTQeL-e5b3de5c391c8e3805df72a8cdb3da051ece71fa

    ANA、機内食総選挙2017の結果発表 和食は牛すきやき丼、洋食はビーフシチューとオムライス

    Sponsored link  機上ӗ…
  2. MIT-Instant-Retouch-TA-12db540ca97a6020f2db78ca5b27647ac89d2f28

    機械学習を用いれば、写真が「撮影する前」からプロ仕様の美しさに──グーグルとMITがアルゴリズムを開発

    NEWS 2017.08.22 TUE 08:00マサチ&…
  3. GettyImages-496380034-e1503241697905-b18cea347ee2933a806af5a4adfa2f3d9569add1

    「世界共通のインターネット」を巡る、グーグルとカナダ最高裁との闘い

    NEWS 2017.08.21 MON 07:00カナダ&…
ページ上部へ戻る