「藩札2.0」の夢──ブロックチェーン×地域通貨は地域格差を解決するのか

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一時は廃れたと思われた日本での地域通貨を、Orb(オーブ)CEOの仲津正朗は藩札とブロックチェーンによって蘇らせようとしている。ビットコインよりも参入障壁の高いサーヴィスで地方経済の活性化を狙う仲津は、どのようなバックエンドシステムを構築したのか。

TEXT BY SATORU KANAI

オーブCEOの仲津正朗(写真左)は、学生時代から15年以上、貨幣システムの研究に取り組んでいる。対するは日本オラクル執行役員で同社のクラウド事業を推進する竹爪慎治。対談は日本オラクル内の茶室「聚想庵」で行われた。PHOTOGRAPH BY ARI TAKAGI

ブロックチェーンの魅力は、それが「脱中央集権」的な仕組みであることにある。分散型のシステムであるからこそ、データ改ざんがされにくく、サーヴィス停止の憂き目に遭うことも少ない。

しかし、実はそれはすでに江戸時代に達成されていたことだと言うのが、Orb(オーブ)のCEOとして、ブロックチェーンを活用した地域通貨プラットフォームをつくろうとしている仲津正朗だ。

国産ブロックチェーン/分散型台帳の基盤技術「Orb DLT」が提供するFinTech(フィンテック)ソリューションは、ビジネスオーナーや金融機関、個人に至る誰もが簡単に、独自の通貨やポイント、クーポン、電子手形などの発行、支払いネットワークを構築できるようになる。ビットコインと比べ、相場が固定されることで為替変動を気にする必要がなく、独自の認証アルゴリズムによるリアルタイムでの決済も可能。高い改ざん耐性や拡張性を実現している部分も各方面から注目を集めている理由のひとつだ。

仲津の言う江戸のころの“分散型システム”とは何か? それをいかに現代に復活させようというのか? また、なぜ、仲津はオラクルをパートナーに選んだのか。日本オラクル執行役員である竹爪慎治との対話をもとに、その理由からブロックチェーンの未来まで語ってもらった。

──まずは、仲津さんが実現しようしているサーヴィスについてお聞かせください。

仲津正朗(以下仲津) 学生時代から、金融システムが孕む問題解決を目指して研究をしてきたんですが、2000年に「エンデの遺言」(ファンタジー作家ミヒャエル・エンデが遺言として残したテープをもとに制作されたドキュメンタリー番組)を観たのをきっかけにたどり着いたのが、「藩札」(江戸時代に各藩が独自に領内に発行した紙幣)というシステムでした。調べてみると、19世紀末〜20世紀にかけてシルビオ・ゲゼルが提唱した「自由貨幣」よりもはるかに高度なフィンテックソリューションを江戸時代の藩経済がもっていたときづいたのです。

インターネットがメディア格差を解消したように、インターネット以来の革命的な技術といわれているブロックチェーンは、経済格差を解消する役割を担います。地方におけるコミュニティー経済を活性化するため──ぼくらが電子版藩札と呼んでいるソリューションを提供していくことが、経済格差の解消につながると考えています。

仲津は、NYの邦人投資顧問やセブンネットショッピングでのプロダクトマネジャーを経験したのち、シリコンヴァレーにてコンテントキュレーションヴェンチャー「Musavy」を手がける。その後「Groupon」「Criteo」を経て、2014年2月にオーブを創業。PHOTOGRAPH BY ARI TAKAGI

──電子藩札を、どういう仕組みで実装されようとしているのでしょう。

仲津 江戸時代は小判が“メイン通貨”です。藩札という紙幣の信頼を得るためには、地元の豪商に後見人になってもらう必要がありました。現代においてその役割を果たすのは、地元企業のビジネスマッチングなど経済圏のハブ的な役割も果たしている地方銀行や信用金庫といった金融機関。彼らのビジネスに実装してもらうことが重要であり、顧客としても最適な存在です。

ただ、金融機関は、パブリッククラウドに対して、プライヴァシーやセキュリティーの面で不安を感じています。とは言え、オンプレミスで電子藩札を導入しようとすると、コストがかかり過ぎてしまいます。そうしたなかで、オラクルのサーヴィスはクラウド形態でありながらも、地銀やほかのSI事業者が提供しているデータセンターで運用可能という柔軟性をもっているので、ぼくらのサーヴィスとの相性がいいんです。

竹爪慎治(以下竹爪) 「Oracle Cloud at Customer」(顧客のデータセンター内にクラウド環境を構築し、使用量に応じて課金するサーヴィス)ですね。オラクルは、これまで金融機関や航空関係など社会基盤に近いシステムに対応するためのオンプレミス型のアーキテクチャーを提供してきました。そうした実績があるなかで、オラクルのクラウドには、「コスト」、「信頼性」、「性能」、「標準準拠」、「互換性」、そして「セキュリティー」の6つの設計思想が備わっているため、地方銀行やコミュニティーが求める地域経済プラットフォームに最適では、と思います。

──金融機関を軸に、地域通貨を浸透させる、と。そうして、オーブの手がけるソリューションは地域経済の活性にどうつながっていくのでしょうか。

仲津 大きくは決済と契約のソリューションで成り立ちます。まず、地域通貨的に加盟店が藩札決済を受けられるようにしている状態。発行した地域内でしか使えないという特性を活かし、地元住民が受けとる給料を電子藩札にすることで、おのずと地元の加盟店で消費することになります。すると、大手チェーンにお金が流れることはなく、優先的に地元企業が儲かる仕組みがつくれる。また、ポイントシステムや加盟店の決済手数料の差別化といった共存関係をつくり出すこともできます。チェーン店で電子藩札を使う場合は4パーセントの手数料だけど、地元の加盟店だったら0.5パーセントなど、優劣をつけることで地元の加盟店にお得なメカニズムを決済でつくり上げていけます。

──こと経済で言えば、中央集権的な日本銀行が管理することで、それなりに統制がとれているという見方もできます。地域活性化された経済は、果たしてただしく機能するのでしょうか。

仲津 いちばん重要なポイントは、インフレを起こさない通貨を仕掛けていくことですよね。シルビオ・ゲゼルが唱えた定期的にお金の価値が減っていく「自然減価」――まさに、日本のポイントカードがもっている期限付きという発想が有効です。もうひとつ、変動相場制のビットコインが一般市場に普及することはまずないと思っているんです。それは投機市場になってしまうことで、高騰や下落を繰り返すため。それらを踏まえると、基本的には固定相場で運用することによって、その問題を解消することが可能です。

──『エンデの遺言』をキッカケに日本でも地域通貨が流行りましたが、3年ほどで終息してしまいました。地域通貨の何が問題だったと考えていますか。

仲津 いくつかの理由があると思いますが、ミヒャエル・エンデの影響でボランティア主体だったことが大きい。あくまで日本は資本主義経済ですので、儲けがなければステークホルダーは乗っかってきません。そのメカニズムを整えきれなかったのが原因だと思います。ぼくはセブンネットショッピングで「nanaco」にもかかわっていたのですが、同じようなインフラを地方でも粘り強く整えられれば、相当価値のあるソリューションに育っていくだろうと思うんです。

しかし、いままでの開発手法では中央サーヴァーに更新メカニズムをつくっていかなければいけないので、メンテナンスコストがかかり過ぎる。オラクルとのコンビネーションでインフラを安く提供し、金融機関だけではなく、商店街の各店舗から将来的にはスマートフォンをもっている個人ユーザーまで、お互いに台帳を共有し合う環境をつくることによって低コストでシステムが落ちにくい状態がつくれる。これは、ブロックチェーンがもっているコンセプトですよね。

ただ、決済を完了させるファイナリティや、サーヴァーを増強しても性能が落ちないスケーラビリティーとパフォーマンスといった発想が抜けているので、ぼくらは、分散データベースの発想を取り入れたブロックチェーンとのハイブリッドモデルである「Orb DLT」を完成させました。

また、電子藩札を取り入れた不動産取引やBtoBの電子手形など、アプリを簡単につくれるAPIやSDK(ソフトウェア開発キット)シリーズも用意しています。これらも常にアウトソースしていたらコストがかかり過ぎて、サーヴィス普及を妨げる要因になり得る。サンプルコード集のライブラリーを用意しておくことで、ある程度の知識をもったプログラマーなら誰でも扱えて、トライアンドエラーを繰り返しながら、ヴァラエティに富んだ藩札経済をつくれる仕組みを整えていくことが重要なんです。

PHOTOGRAPH BY ARI TAKAGI

──電子藩札が導入された地方自治体では、どういうことが実際に行われるようになるのでしょう。

仲津 商店街のガチャレジはタブレットに変わり、現金で買い物をする時代から電子決済に切り替わることで人口動態と購入履歴が完全に可視化できるようになります。

たとえば、商店街にあった喫茶店が潰れてしまったとします。しかし、休憩スペースとなる喫茶店があったが故に買い物客が商店街を使っているという実態もあった。ここでコミュニティー経済に空いた穴をチェーン店が埋めてしてしまうと、売り上げは東京に本社を置く企業に流れてしまう。

電子藩札が完全に浸透していれば、人口動態が可視化されていますから、黒字化させるための目標金額も簡単に割り出せる。要は、起業能力の高い人がいなくても経営が成り立つわけです。そうして、クラウドファンディング的に地元で起業家を募り、あらたな喫茶店を立ち上げれば、商店街のサプライチェーン関係が維持されていく。ビッグデータを活用して、限りなくリスクが低い状態でビジネスの仕組みを整える――ぼくらは、そのための基盤技術とソリューションを提供しているんです。

──オラクルという企業自体は、社会基盤を支える立ち位置や取り組みになるという点をどうお考えなのでしょう。

竹爪 仲津さんのような新しい社会基盤をつくろうとしている企業と共に実績を上げていくのは、ぼくらにとってもいいチャレンジだと思っています。いよいよオンプレミスで培ってきた経験や技術をクラウドに応用し、これまでにない要望にお応えできるフェーズになってきました。それは、オラクルが社会基盤に近いサーヴィスにインフラを提供してきた歴史があってこそ実現できることでもあります。

オーブのサーヴィスは電子決済や契約をインフラの中心に据えていますが、商店や地域に対して付加価値の高い情報を提供していくというキーワードも出ましたよね。そうしたビッグデータの分析技術や可視化でぼくらのクラウドサーヴィスをうまく活用していただき、自分たちのリソースを割かずに、本来注力しなければいけないポイントにリソースも時間も費やしてもらう。そこまでビジネスを拡張できたら、真の意味でのパートナーシップとなるのだと思います。

ビジネス変革と競争優位を勝ち取る武器としてクラウド活用が本格化しているなか、クラウドを武器にビジネス変革をどのように行っていくべきか。真の「クラウドのちから」を体感できるイヴェント「Oracle Cloud Platform Summit Tokyo 2017」が2017年4月25日(火)、ウェスティンホテル東京にて開催される。基調講演には、本記事に登場しているOrb仲津氏の登壇も予定されている。

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