マジックリープの性差別訴訟から、シリコンヴァレーの「多様性問題」を解決する方法を考える

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拡張現実スタートアップ、マジックリープの元女性社員が起こした性差別訴訟が和解した。だが、これで同社が抱える問題が解決したわけではない。社内文化や経営に関する問題が明るみになりにくいテック企業の体質を改善するために、いま必要な変化とは。

TEXT BY DAVEY ALBA

WIRED(US)

Rony Abovitz

マジックリープ創業者、ロニー・アボヴィッツ。PHOTO: GETTY IMAGES

評価額が45億ドルとされる秘密主義の拡張現実(AR)スタートアップ、マジックリープ(ビヨンセは試してすぐ飽きたらしい)は5月上旬、性差別訴訟で和解した。

原告は、タネン・キャンベル元戦略マーケティング担当副社長。同社の製品をより女性に魅力的なものにするために在籍していた人物である。キャンベルは2017年5月8日、マジックリープの本社があるフロリダ州の連邦裁判所に和解合意書を提出した。和解条件は明らかにされていない。順調に進めば、訴訟は6月はじめに正式に終了する。

しかし、マジックリープの問題は解決していない。創業者ロニー・アボヴィッツが1年前に『WIRED』US版の表紙に登場して以来、マジックリープは約束の不履行について批判され、苦境に立たされているからだ。

シリコンヴァレーがこの秘密のスタートアップについて騒いだ2014年から、グーグルやアリババ、アンドリーセン・ホロウィッツを含む巨大VCが、現実世界に仮想3Dオブジェクトを重ね合わせるマジックリープの「複合現実」(MR:Mixed Reality)技術にこぞって投資をした。しかし、これまでに14億ドルの資金を調達したにもかかわらず、マジックリープは“大げさな約束”をしている可能性があると批判されている。いまでは、同社が製品を実現できるかという点で多くの疑問がもち上がっている。

芋づる式の機能不全

キャンベルの訴訟のおかげで、マジックリープはこれまで考えられていたよりも大きな機能不全に陥っているとの疑いが強まっている。過度の誇大宣伝は、企業が誤った経営によって停滞していることを示す兆候のひとつであり、キャンベルが訴えたような女性蔑視は、ほかのレヴェルでも機能不全を起こしていることを示唆しているからだ。テック企業の性差別問題が積み重なるにつれ、道徳的に稚拙な、あるいはビジネス上の問題を抱える会社の女性蔑視文化が明らかになりつつある。

キャンベルは2月、マジックリープが女性蔑視的な職場環境を助長し、それについて問題提起すると解雇されたことを訴えた。この訴訟では特に、マジックリープの役員が女性従業員の意見を軽視していることが主張されている。また社内では「女性はコンピューターに弱い」と言われていることも取り上げられている。

すでに広まった噂によると、IT担当者のひとりが、「IT部門にはことわざがある。3つの『O』、すなわち東洋人(Orientals)、老人(Old People)、卵巣(Ovaries)を避けよ」と言ったとされている。こうしたことから訴訟では、マジックリープが徹底して女性に対して風当たりの強いカルチャーを助長していることが強調されている。

さらに、キャンベルが問題を提起したときに、マジックリープはその体質を改善する努力をほとんど行わなかったとされている。キャンベルは職場で性別の多様性に関する提案を6回試みたが、無視されたそうだ。社内組織として「Female Brain Trust Initiative」と「Women’s Inclusion Network」がつくられたが、これらのグループは経営陣からの支援を得られず、結果的に停滞したとみられる。

誤解のないように言うと、訴訟での主張はこれだけであり、問題が解決されれば公開裁判が行われることはないだろう。マジックリープは連邦裁判所で、なんらかの差別が行われているという主張を否定するための回答を逐一提出した。しかし、この裁判が行われたことそのものが、女性が従業員の約30パーセントしかいないテック業界の印象を悪くしている。

透明性こそ命

テック業界の多様性(ダイヴァーシティ)の問題は、この業界を志望する人に悪い印象を与えることはもちろん、“均質な企業”が問題が出やすい状態に陥っていることを示している。

たとえば企業は、あらゆる人に向けた製品に、無意識のうちに偏見を埋め込むリスクがある。2014年に発売されたアップルの「HealthKit」は、すべての人にとっての包括的な健康トラッキングシステムとして発売されたが、発売からの1年後までの間は生理を記録することができなかった。2015年7月、グーグルの新しいフォトアプリは人工知能を利用して写真に自動的にタグ付けを行ったが、アフリカ系アメリカ人のカップルを「ゴリラ」と識別した

しかしマジックリープの事例と最も関連があるのは、Uberの元従業員が、会社に深く染み付いた性差別文化について語った件だろう。Uberのプログラマー、スーザン・ファウラーのブログ記事は、一連のスキャンダルの初めのひとつに過ぎなかった。それ以降、知的財産に関する訴訟や倫理問題に関する司法省の調査が続き、もはや企業はこれまでのように不透明性を保つことがほぼ不可能になっている。

簡単な解決方法はないだろうか? それは、テック業界全体に根付いている秘密主義をなくすことだろう。アップルやフェイスブック、グーグル、マイクロソフト、アマゾンは、そしてすべての大手テック企業は、秘密主義によって企業運営をより迅速かつ効率的にしている。

しかし、この秘密主義への崇拝が、破滅的な企業文化を永続させうる。透明性は、これらの強力な企業がより大きな説明責任を負うべきだという、人々の増え続ける要求を満たすのに役立つだけではない。企業の透明性は、企業自らを救うことにもつながるだろう。

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