中村理彩子、22歳。これからの「ファブ」に必要な、ある視点

170609-_L2A9022-683x1024-7bff98ff2fa71c6346bcbd2e626aa291b0d2725a

特集「ものづくりの未来」の雑誌『WIRED』日本版VOL.28で取材したのは、「リアルクローズなら、自分でつくっちゃいますけど。なにか?」とでも言いそうなモデルの中村理彩子だ。物欲は旺盛、ただし「つくれないものしか買いたくない」、22歳の“メイカー”の視点。(『WIRED』日本版VOL.28より転載)

TEXT BY SOTA TOSHIYOSHI
SPECIAL THANKS TO YOSHIKO MIYASAKA @ DIFA.ME, TECH SHOP JAPAN

RISAKO

型紙なしでつくった真っ赤なワンピース。TechShopの端材置き場にあった端布に目検討でハサミを入れ、ミシンで一気に縫い上げた。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

東京・赤坂のTechShop Tokyoで出会った中村理彩子は、このメイカースペースがオープンしてすぐに入会した「初期会員」だ。大学でデザインリサーチを学びながらファッションモデルもやっている。同時に服飾専門学校にも通い、「最近はあまり行けてない」と言いながらも週に2、3日はここを訪れ工作機器を操り、洋服づくりに勤しんでいる。

衣服を対象に、ものづくりを観察する者、身につける者、そしてつくり出す者という3つの目をもった彼女のものに対する距離感は、実に絶妙だ。

22歳という年齢からすると、いわゆるミレニアルズと呼ばれる世代のひとりだといえる。しかし、その世代に共通して希薄だといわれる消費欲は、それなりにもっている。

「物欲がないわけじゃないんです。ハイブランドのお洋服の素晴らしさもわかります。でも、たとえばそれが少しでも自分で表現できそうなら、買わずに“挑戦”したいんですよね」

自分でつくれなければ、買う。衣服ではないが、最近購入したのは凝ったパッチワーク加工の椅子で、職人技には憧れを感じる。

  • 170609-_l2a9337

    1/6蝶番から自作を試みた木製のオリジナルメガネフレーム。彼女のものづくりの動機は「つくれるか、どうか」という単純な疑問から始まる。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a8975

    2/6現在制作中のカットソー。デジタルミシンで刺繍した金糸は集積回路のように見えるが「導電性はないんです」と笑う。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a8957

    3/6シャツにはPhotoshopで加工した自身の写真をプリント。「やりたいことを知ってもらうためのサンプルです」。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a8970

    4/6写真を転写したシャツは「思い出が写真になるように、洋服にもなったら」とのコンセプト。衣服がただ身に纏うだけの存在でなくなる瞬間を目撃しようという実験でもある。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a9365

    5/6浴衣には、カラフルな樹脂を縫い付け刺繍をし、金魚鉢のなかを表現。和柄や漢字など日本的なモチーフにも興味がある。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a9311

    6/6日本画から借用しIllustratorやPhotoshopで加工した花をプリントしたワンピースは、自分のために自分でつくった「リアルクローズ」だ。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a9337

    170609-_l2a9337

蝶番から自作を試みた木製のオリジナルメガネフレーム。彼女のものづくりの動機は「つくれるか、どうか」という単純な疑問から始まる。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a8975

    170609-_l2a8975

現在制作中のカットソー。デジタルミシンで刺繍した金糸は集積回路のように見えるが「導電性はないんです」と笑う。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a8957

    170609-_l2a8957

シャツにはPhotoshopで加工した自身の写真をプリント。「やりたいことを知ってもらうためのサンプルです」。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a8970

    170609-_l2a8970

写真を転写したシャツは「思い出が写真になるように、洋服にもなったら」とのコンセプト。衣服がただ身に纏うだけの存在でなくなる瞬間を目撃しようという実験でもある。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a9365

    170609-_l2a9365

浴衣には、カラフルな樹脂を縫い付け刺繍をし、金魚鉢のなかを表現。和柄や漢字など日本的なモチーフにも興味がある。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

  • 170609-_l2a9311

    170609-_l2a9311

日本画から借用しIllustratorやPhotoshopで加工した花をプリントしたワンピースは、自分のために自分でつくった「リアルクローズ」だ。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

「自分らしさ」の写し鏡

買うかつくるかの基準は、彼女に言わせると「外食するか自炊するかの違い」でしかない。だから、ものづくりを自身の世界観を主張するものだとは考えていない。ファブがもたらした自由は、身をもって知っている。が、シャツに自身のポートレイトをプリントしたりするのもあくまで「実験」でしかないし、ブランドを立ち上げたいと熱望するわけでもない。YouTuberのように「好きなことで生きていく」気もなければ、まして、ものづくりスタートアップを起業したいわけでもない。ただ、手を動かして思い描いたものが形になるのを楽しんでいる。

「いまマスカスタマイゼーションが注目されていますし、もののパーソナライゼイションも付加価値として面白いと思います。ただ、プロトタイプをつくるのは簡単だけど、シャツですら1着ずつオーダーに合わせてカスタマイズしていたら、ビジネスにならないと実感しました。それに、マスプロダクションだからできたこともあって、たとえば大量のロット数を担保できたからこそ生み出せた素材や加工があると聞いて、驚きました。そうした素材や加工が絶滅してしまったら、すごく残念だと思う」

マスプロダクションとマスカスタマイゼーションが、それぞれものづくりの過去と未来の姿だといわれても、一方をのみ選ぼうとはしない。彼女の視線は、その中間にある。

中村理彩子

中村理彩子

MA-1に施したオリジナルの刺繍。花びらの代わりに「桜」の漢字が躍る。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

そもそも彼女が衣服への興味を自覚したきっかけは、ものづくりへの関心ではなかった。

「中国政治を専攻していたんです。清の時代から現代に至る社会のありようを学ぶなかで知ったのが、服のもつ制度的な機能だったんです。たとえば辮髪だったり人民服だったり……文化表象体としての衣服、メディアとしての衣服に興味が湧いてきて。上海では街を歩く人たちにアンケート調査をしました」

興味の赴くままに所属を決めた大学のゼミでは、Illustratorからレーザーカッターまで、デジタルファブリケーションを使いこなすためのあらゆるスキルを学ぶことができた。

以来、服づくりを続けている。自分はファッションが好きなのだと強く思う。が、大学を卒業したら、ITサーヴィス企業に勤めてみたいとも思っている。

「あるプラットフォームに人が集まり、それを設計した人が思いもつかないものが生まれていくのに興味があるんです。ユーザーが勝手にものをつくりだすようなインタラクションを、わたしもつくり出してみたい」

彼女が「お気に入りの作品」だというシャツには、自分が旅したタイの風景写真が大きくプリントされ、Illustratorで描いた旅路や思い出の数々が刺繍されている。

中村理彩子

中村理彩子

旅行で訪れたタイでの写真と地図を刺繍したシャツ。本人は「さすがにデートには着ていけない」と笑う。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

「衣服の上に、それを着る人の思い出を写し取れたら、パーソナライゼイションという言葉以上の面白さを表現できるのではないかと思ってつくったんです。いざ衣服に自分のアルバムのなかから写真を選ぶとなったとき、人はどの写真を周囲の人に見られてもいいと思うのか。人のパーソナルの境界に、そしてそれがどの程度抽象化されるのかに、興味があるんです」

彼女が洋服の先に見ているのは身に纏う人であり、その周囲の社会そのものだ。「でも、こんな服じゃデートに着ていけないですよね」と彼女は恥ずかしそうに笑うが、言われてみればデートに着ていけるかどうかという“本質的”な問いこそが、たしかに「ファブ」やら「メイク」には欠けていたようだ。

中村理彩子︱RISAKO NAKAMURA
1994年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部でデザインリサーチを学びながら、文化服装学院服装科に在籍。同時に、ファッションモデルとしても活動している。最近つくったのは「レーザーカッターでロココ調の装飾を施した2mの高さの鏡台」。ウェブメディア『DiFa』では、デジタルファブを使ったものづくりの連載を6月からスタートする予定。自ら制作したウェブサイトでは、自身の作品を自らモデルとなって発表している。memoriestogo.info

Related post

話題をチェック

  1. Quanta_TA-1-e1481166732906-ab2ca6b5ab1b5127ce66e83bab019d6dca7bbe3e

    2017-1-14

    生物の進化をその目で見届けた伝説の生物学者、グラント夫妻、40年の成果を語る

    STORY 2017.01.14 SAT 21:00ピュー…
  2. nuTonomy-Boston-8a112aeba185b1a6d7e9c16989b5f4f34fa88db9

    2017-1-12

    自律走行車の試験走行にはボストンが最適、といういくつかの理由

    INSIGHT 2017.01.13 FRI 08:00MITから…
  3. 20170112drone-bff49a50aabfc1d6bbcc015fa9e4a2fde42ee715

    2017-1-12

    グーグル親会社、ドローンインターネット計画「Titan」断念か 従業員は気球インターネット「Loon」へ

    Sponsored link  フェイ&…
Return Top