映画『ヴェノム』は「気の抜けたマーベル帝国」を救えるか?

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いま最も勢いのある俳優といえるトム・ハーディが、2018年10月に全米公開予定の映画『Venom』に主演することが決まった。マーベル・シネマティック・ユニヴァースとはまた別の、ソニー・マーベル・ユニヴァースの作品である。ますます混乱するマーベル帝国に、ハーディは新たな可能性をもたらすことができるのか。

TEXT BY BRIAN RAFTERY

WIRED(US)

Venom

PHOTO: GETTY IMAGES

トム・ハーディが「ソニー・マーベル・ユニヴァース」の一部としてヴェノムを演じるというニュースを見て、なんとなく1990年夏のことを思い出した。わたしが住んでいたフィラデルフィアのコミックブック店に、トッド・マクファーレンの新しい『スパイダーマン』第1巻が届いた日である。

それはわたしが、『アメイジング・スパイダーマン』『ウルヴァリン』『パニッシャー』『デアデビル』『アンキャニィX-MEN』『Xファクター』『ファンタスティック・フォー』『シーハルク』などのタイトルを出していたマーベル狂の騒ぎを見始めてから8年が経ったときのことだ。

わたしは、マーベルの熱狂的な支持者でさえいまでは思い出すのに一苦労するようなグラフィックノヴェルに小遣いをつぎ込み、何年も続く作品からさほどかっこよくないものまで買っていた。もちろん、バットマンやスーパーマンにハマり、DC側に行こうとしたこともあった。しかし、その10年間の大半、わたしはマーベル派だった。

しかし、マクファーレンの『スパイダーマン』が出てきたころには、この巨大な出版社の戦略は、臆病で皮肉っぽく、癪に障るものになっていた。1980年代後半には『ウォッチマン』や『バットマン: ダークナイト・リターンズ』のような“大人向け”の話、ティム・バートン監督による『バットマン』、マクファーレンのようなスーパースタークリエイター、そしてコレクター市場の台頭のおかげで、コミック産業はメインストリームになっていた。『Amazing Heroes』や『Comics Buyers Guide』のような雑誌は特集や広告で膨れ上がり、かつては無人だったコミックブック店には行列ができていた。

マーベルはミッションを忘れてしまった

それに対するマーベルの手は、野放しで無分別な拡張だった。1984年の「シークレット・ウォーズ」とともに、何年も続くスペシャルシリーズが始まった。シークレット・ウォーズとは 5,373人のマーベルのキャラクターが、危険に満ちた遠い惑星に置き去りにされるという、複雑で難しいが、それでも面白いミニシリーズだ。

初回はまずまずの売り上げを記録したが、それに続いたのは「シークレット・ウォーズⅡ」というひどい続編だった。これはジョージ・H・W・ブッシュに次ぐ、1980年代の最も劣悪なシリーズ作である。

同じく問題だったのが、出版社が人気ヒーローたちを過剰にカメオ出演させることによって、本の売り上げを伸ばそうとしたことだった。絶え間ない“異花受粉”は、すぐに読者の忍耐力と著者の節度を試すだけの退屈なものになった。1989年ころだと思うが、ROMがキティ・プライドとピーター・パーカーの結婚式の司会を務めている。世間知らずの中学2年生のわたしでさえ、マーベルが死に物狂いなのに気づいたものだった。

さらに首をひねることになったのは、1990年に新しいスパイダーマンのタイトルが出たときだった。少なくともすでに3本は出ているのに、なぜさらにスパイダーマンのコミックが必要なのか? マーベルは一体どうやって、ヴィニール袋に入っていることがその売りだという「特別号」の、2ドルという暴落した値段を正当化できるのだろうか? そしてなぜそれが「いますぐゲット!」と煽られながら売られているのだろうか?

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トム・ハーディ。PHOTO: GETTY IMAGES

コミックの、特にマーベル・コミックの魅力は、読みやすく、友だちに貸してあげる楽しみがあることだった。しかし会社と、その会社がつくり出した世界の両方が、混み入り、複雑になり、当初のミッションだった「簡単な現実逃避」とはかけ離れたものになってしまった。

それでも、スパイダーマン戦略は一部の人に対してはうまく働いた。わたしが行きつけのコミック店に行ったときには、第1巻はすでに売り切れていた。コレクターが買い漁り、自宅のガラスケースに保管していたのだろう。わたしは店を後にし、それからその店には何年も行くことはなかった。

トム・ハーディはごちゃ混ぜの世界から独立できるか

だから、ハーディがヴェノム役を希望したというニュースには驚いた。劇場には、いまや1980年代のニューススタンドにあったのと同じくらい複雑なマーベル帝国がある。ディズニーの巨大なMCU=マーベル・シネマティック・ユニヴァース(『アイアンマン』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『アヴェンジャーズ』…etc.)や、フォックスのXヴァース(「X-Men」シリーズ、『ローガン』や『デッドプール』のようなスピンオフ)があり、そしていま、ソニー・マーベル・ユニヴァース(『スパイダーマン』シリーズ、ヴェノム、そして今後はシルバーセーブル/ブラックキャットの映画がつくられる可能性がある)が存在する。

これらの世界は、ときおり混ざり合うことがある。ソニーとマーベルスタジオは、スパイダーマンが来年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のためにMCUに出演する(そしてトニー・スタークが『スパイダーマン:ホームカミング』に出演する)ことを許すよう交渉をまとめた。しかしいまのところ、大部分においては彼らは互いの領域に踏み込まないようにしている。

しかしそうした住み分けも、マルチエピソードの構成、どこかで見たような展開、しらけるカメオ出演、絶え間ないリブートなど、1980年代の終わりまでにマーベルを堕落させることに貢献した、ごちゃ混ぜの物語がつくられることを止めることはなかった。

わたしは、21世紀のマーベル映画の多くを愛してきた(『アイアンマン3』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『ローガン』はわたしのベスト映画リストに入る)。しかしキャラクターが詰め込まれ、“インフィニティ”に酔い、「観逃せない超大作」を謳う新しいリリースが出るたびに、わたしは、これらの映画がいつか減速するのか、もしくは集約されるのかと思いを巡らせてしまう。

現在のマーベル作品の世界はひどく巨大に広がっているが、これが過去にマーベルをつまづかせることになった。しかしわたしは、ハーディ演じるヴェノムが、独立した存在として目立つことを願っている。何はともあれ、彼がスパイダーマンと顔を合わせるまでに、1本か2本、ハーディの映画を観る必要がある。

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