小説原作者は「TV版の制作」に加わるべきである──米SFドラマ「エクスパンス」が変えた番組づくりの“常識”

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「実写化作品は原作小説より劣っている」と思っているなら、考えを改めたほうがいいかもしれない。いま、米国のテレビドラマの世界では、原作者が映像化作品の制作に積極的に加わっているのだ。米SFドラマ「エクスパンス」から考える、原作と実写版の素晴らしき関係。

TEXT BY CHARLIE JANE ANDERS

WIRED(US)

PHOTOGRAPH COURTESY OF RAFY/SYFY

「ウォーキング・デッド」や「ゲーム・オブ・スローンズ」、「アウトランダー」は、本に基づいて制作されたテレビシリーズのなかでも成功している作品だ。しかし最近まで、原作者のほとんどが、実写版の制作にかかわることはなかった。大抵の場合、制作会社が原作者を巻き込むことはないと、ジェイムズ・S・A・コーリイの名で、ダニエル・エイブラハムとともにSF小説『The Expanse』(巨獣めざめる)を書き上げたタイ・フランクは言う。

HBOはジョージ・R・R・マーティンのファンタジー作品によって成功を収めたが、文学作品の実写化を試みるそのほかのテレビ局は、原作に忠実な作品をつくるのに苦戦している。「ライターズルーム」(脚本家の作業場)に原作者を入れることさえも渋っている。

フランクとエイブラハムは、ともに米ケーブルテレビ局Syfyの「エクスパンス -巨獣めざめる-」を手がけ、シリーズ3話の脚本を書き上げた。ニール・ゲイマンは「アメリカン・ゴッズ」のエピソードを脚本し、今後Amazonで公開予定のシリーズ6話をすでに完成させている。パトリック・ロスファスにおいては、『キングキラー・クロニクル』実写版の新しいキャラクターやストーリーラインを制作している。いまハリウッドで人気のある、本を原作にしたテレビ作品には、原作者が少しずつ制作にかかわり始めているものがあるのである。

「エクスパンス」シーズン2予告編。

ドラマ制作の常識は変わった

フランクとエイブラハムが『The Expanse』テレビ版の脚本チームへの参加を依頼された当初、それがどれだけの意味をもつのかに気づかなかったとフランクは言う。

エグゼクティヴプロデューサーのマーク・ファーガスとホーク・オストビーはとても協力的で、製作会社のアルコン・エンターテインメントは積極的。しかし、ショーランナーのナレン・シャンカルは当初、フランクとエイブラハムを制作にかかわらせるという前例のない試みにためらっていた。いまとなっては、フランクとエイブラハムがほかの仕事のためにライターズルームを出なければならないとき、シャンカルの機嫌は悪くなるそうだ。「ぼくたちが彼の考え方を変えたんだろう」とフランクは言う。

慣例を覆しているのは2人だけではない。「レモニー・スニケット」という名で『世にも不幸なできごと』を執筆したダニエル・ハンドラーは、同シリーズを映像化したNetflix作品第1シーズンの制作時に、ライターズルームにいただけでなく、制作方法さえも変えてしまった。「レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと」[日本語版記事]シーズン1のライターズルームでは、脚本家たちが互いにどちらが面白いアイデアを出せるかを競い合う、「とても競争的な環境だった」とハンドラーは語る。しかしシーズン2では、ロサンゼルスの会議室ではなく、原作者ハンドラーが脚本家をサンフランシスコの自宅へ招くことができるよう、Netflixを説得させたという。

ハンドラーはいまでは、「レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと」の脚本家たちのランチにお手製のスープを、夕食前の時間になればウィスキーのカクテルを毎日振る舞うようになった。会社という枠から飛び出してダイニングルームでミーティングを行うことで、よりリラックスした、協力的な環境をつくることができ、脚本をうまく進めることができたという。

Netflixが手がける「レモニー・スニケットの世にも不幸なできごと」予告編。

「原作の声」をとらえるために

いまではフランクやエイブラハムはライターズルームのなかで「エクスパンス」の脚本家たちとともに仕事をしているが、これにはメリットがいくつかある。テレビではシーズン2まで公開されているが、脚本家たちはすでに原作の7冊目を手がけている。脚本家が、原作者がこれから書こうとしている内容と矛盾するようなプロットを提案したときには、2人はすぐに意見することができる。

またフランクとエイブラハムは、ロビー活動をしているともいえる。第1シーズンでは、2人はサイエンスの面をより正確に表現するようにアドヴァイスをした。たとえば、太陽系のなかでのコミュニケーションに生じる時差や重力の違い、移動時間が遅くなるという事実の描写である。脚本家はこうしたリアルな表現が作品に緊張感を与え、よりよいストーリーをつくり出す要素になることに気づいた。

最近ではより多くの作者が、その映像作品の脚本制作に加わりたいと思っていると、フランクは信じている。だがいままで原作者が制作に加わることは必須ではなく、特別なことだった。ライターズルームの共同作業が行われる雰囲気を受け入れ、自分の生み出した作品に対してほかの人間が出す新しい提案に耳を傾ける──そんな環境に誰でも入り込めるわけではないとフランクも認めている。

しかしハンドラーは、テレビ番組の制作過程に原作者を加えることこそが、「原作にしかないユニークな声」をとらえるいちばんの方法であると考えている。たとえばボードレール家の子どもたちに降りかかる不幸なできごとを淡々と語る、レモニー・スニケットの無感情なナレーションは、原作を理解しているからこそ生まれたものだろう。

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